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「幻影の盾」色の比喩がたくさん、きれいでおしゃれ <アイラヴ漱石先生朗読館=2022年10月23日放送>

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熊本日日新聞 2022年10月23日 00:00
「アイラヴ漱石先生 漱石探求ガイドブック」NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石・八雲教育研究センター編 集広舎1650円 191ページ
「アイラヴ漱石先生 漱石探求ガイドブック」NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石・八雲教育研究センター編 集広舎1650円 191ページ

おはようございます。本田みずえです。夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたい、そんな人たちに向けて書かれたガイドブック、アイラヴ漱石先生が、今年4月に発刊されました。夏目漱石は、第五高等学校の英語教師として、生まれ故郷以外の土地では最も長い4年3カ月を熊本で過ごしました。この番組では、そんな漱石先生の文学の面白さを、熊本の高校生の皆さんと探究していきます。今日は、第二高校2年生の堀坂琥太朗さん、1年生の山口虎太朗さんと、漱石の短編小説、幻影の盾の魅力を探っていきましょう。解説は、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんです。この番組は、NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部付属漱石八雲教育研究センターの協力でお送りします。

<朗読>「幻影の盾」

ここは南の国で、空には濃き藍(あい)を流し、海にも濃き藍を流してその中に横たわる遠山(とおやま)もまた濃き藍を含んでいる。ただ春の波のちょろちょろと磯を洗う端だけが際限なく長い一条の白布(はくふ)と見える。丘には橄欖(かんらん)が深緑りの葉を暖かき日に洗われて、その葉裏には百千鳥(ももちどり)をかくす。庭には黄な花、赤い花、紫の花、紅(くれない)の花――凡ての春の花が、凡ての色を尽くして、咲きては乱れ、乱れては散り、散りては咲いて、冬知らぬ空を誰(たれ)に向って誇る。

<本田>朗読は堀坂琥太朗さんでした。それでは今日は、第二高校2年生の堀坂琥太朗さん、1年生の山口虎太朗さんと、漱石の短編小説、幻影の盾の魅力を探っていきましょう。まず作品の解説を、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんにお願いします。

<西口>明治29年、1896年から4年3カ月、漱石は熊本で暮らしています。この半端な滞在時間の理由は、1900年の6月に文部省からイギリス留学の命が下ったからです。1歳の娘、筆子と妊娠中の妻、鏡子を置いて、漱石はイギリスに行きます。最も不愉快の2年なり、と漱石が語ったイギリスでの暮らし。精神的な痛手を受けて帰国した彼は、自分を癒すために小説を書きました。吾輩は猫であると並行して書かれたのが、この幻影の盾です。1905年、明治38年、ホトトギス4月号に掲載されました。この作品は、現代のファンタジー作品の元祖とも言われているアーサー王物語や北欧神話など、漱石がイギリスで出会ったであろう作品たちを下敷きにして、美しい文章で書かれています。古典的な言葉が使われていて、読みづらいと思うかもしれませんが、少し我慢して読んでいくと、慣れてきて心地よくなりますよ。内容は、白い城、白城の騎士ウィリアム、身の丈、六尺一寸、185センチ、腕に鉄のこぶを持つ勇者。黒い城、夜鴉城のクララ姫、とにかく美しい姫、汚れのないこの二人の愛が醜い戦争によって踏みにじられながらも、ウィリアムの家に伝わる幻影の盾の魔法によって叶えられるというお話。幻想の世界を描いた短編ロマンチックラブファンタジーです。漱石は超ド級のロマンチストなのです。

<本田>ではここからは3人で作品の魅力や感想についてお話ししていただきましょう。

<西口>はい、ではよろしくお願いします。

<高校生>よろしくお願いします。

<西口>堀坂くんと山口くん、男の子2人、なぜこの幻影の盾を選んだんですか? 難しくなかったですか?

<高校生>いやー、難しかったですね。

<西口>難しかったでしょ? それなのにあえてこれをやりますと選んだその理由を聞いてみたいと思います。堀坂くんどうですか?

<堀坂>僕自身あんまり夏目漱石の作品は知らなくて、山口くんがちょっと知ってる感じだったので、それで山口くんに何個か見つくろってもらって、その中でメジャーどころ2つともう1個がこの幻影の盾っていう作品だったんですけど、メジャーどころを選ぶのもなーって思って。であと幻影の盾もあんまり知らなくて、それ選んでやろうって思ったのもありますし、アーサー王の物語が元になってるっていうところに目を引かれて、それが元になってるゲームとかアニメとか結構見たことがあったり好きだったりするので、それも理由となってこの幻影の盾を選びました。

<西口>なるほど。だいぶ画点が行きました。山口くんはどうですか? 重なるところがあるかもしれないけれど。

<山口>僕は漱石作品を知ってるっていうよりは、ちょっと知ってるぐらいですよ。

<西口>正直ね。

<山口>それでさっき言われたように作品選びを任されて、漱石さんがアーサー王の話を書くなんてって思って、それでこれを進めちゃおうかなって思いました。

<西口>先輩に見つくろえと言われ、山口くんは一生懸命選んだわけね。で、見たところ漱石さんがアーサー王を下敷きにするなんてという感動ものと、これを進めたということですね。分かりました。大変よく合点が行きました。私もなんで二人がこれを選んだのかっていうのが気になって気になって。アーサー王だこれはと思い、だいぶ調べました。アーサー王の。私はゲームとか知らないので、アーサー王の物語をいろいろ調べて、なるほどこれは深いと思ったんでした。分かりました。難しかったでしょ、でも。難しいけど途中でやめようと思わなかったのはなぜかしら。

<堀坂>全編通して難しかったんですけど、それでもいくつかは読みやすい場所であったりとか、例えば風景の描写だったりとかが色の比喩がたくさん使われてたり、たくさん色が使われてたりして、なんか読んでてすごくきれいだなって思ったし、おしゃれだなって思ったので、ちょっとくじけそうになりながらもそれで踏ん張れました。

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