「夢十夜」どの夢が好き? ページをめくる手が止まらない<アイラヴ漱石先生朗読館=2022年10月16日放送>

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熊本日日新聞 2022年10月16日 00:00
「アイラヴ漱石先生 漱石探求ガイドブック」NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石・八雲教育研究センター編 集広舎1650円 191ページ
「アイラヴ漱石先生 漱石探求ガイドブック」NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石・八雲教育研究センター編 集広舎1650円 191ページ

おはようございます。本田みずえです。夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたい、そんな人たちに向けて書かれたガイドブック、アイラヴ漱石先生が今年4月に発刊されました。夏目漱石は、第五高等学校の英語教師として、生まれ故郷以外の土地では最も長い4年3カ月を熊本で過ごしました。この番組では、そんな漱石先生の文学の面白さを、熊本の高校生の皆さんと探究していきます。今日は、済々黌高校2年生の喜納涼香さん、西紋也乃さんと、小説の短編小説、夢十夜の魅力を探っていきましょう。解説は、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんです。この番組は、NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部付属漱石八雲教育研究センターの協力でお送りします。

<朗読>「夢十夜」「第一夜」

こんな夢を見た。腕組みをして枕元(まくらもと)に坐(すわ)っていると、仰向(あおむき)に寝た女が、静かな声でもう死にますという。女は長い髪を枕に敷いて、輪廓(りんかく)の柔らかな瓜実顔(うりざねがお)をその中に横たえている。真白(まっしろ)な頬(ほお)の底に温かい血の色が程(ほど)よく差して、唇の色は無論赤い。到底死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然(はっきり)いった。自分も確(たしか)にこれは死ぬなと思った。そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗(のぞ)き込むようにして聞いて見た。死にますとも、といいながら、女はぱっちりと眼を開けた。大きな潤(うるおい)のある眼で、長い睫(まつげ)に包まれた中は、ただ一面に真黒(まっくろ)であった。その真黒な眸(ひとみ)の奥に、自分の姿が鮮(あざやか)に浮かんでいる。

<本田>それでは今日は、済々黌高校2年生の喜納涼香さん、西紋也乃さんと、漱石の小説、夢十夜の魅力を探っていきましょう。まず作品の解説を、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんにお願いします。

<西口>今日取り上げる作品は、夢十夜です。明治36年、1903年にイギリス留学から帰国した漱石は、大学での仕事をしながら小説を書き始めます。次第に、創作することだけに専念したいという思いが強くなり、なんと大学を退職してしまいます。1907年、40歳の漱石は、朝日新聞社に入社します。その後49歳で亡くなるまでの10年間、ひたすら新聞に小説を書き続けたのです。夢十夜は、明治41年、1908年7月25日土曜日から8月5日水曜日まで、漱石が見た夢を10日にわたって記録したという体裁で書かれた、そんな作品です。第一夜から第十夜までの10の夢は、時間も空間も、またその内容もそれぞれ異なります。それらは、漱石の心の中にある憧れ、恐れ、悲しみ、不安等が凝縮された、とても不思議な物語です。もちろん、夢の中の世界ですから、ぎゅっとつかみ取ることは不可能なのです。そこがまた、この小説の魅力と言えるでしょう。どんなに不条理な内容であっても、夢だからという言い逃れができます。漱石のこの仕掛けにも、感服します。さて、あなたはどの夢がお好みでしょうか。もしかしたら、あなた自身の深層心理にも気づくことができるかもしれませんよ。読めば読むほどに、面白い作品、声に出して読みたい作品です。

<本田>では、ここからは3人で、作品の魅力や感想についてお話ししていただきましょう。

<西口>今日は、済々黌のお二人、喜納さんと西さん、よろしくお願いします。

<高校生>よろしくお願いします。

<西口>二人が選んだのは、夢十夜です。第一夜から第十夜までの、それぞれが違った面白さを持っているんですが、喜納さんは、どの夢が好きでしたか?

<喜納>私は、第一夜が一番好きです。

<西口>第一夜、どんなとこが好きでした?

<喜納>第一夜が、全体的に表現が美しいなって思ったのと、第一夜を選んだきっかけというか、もともと夏目漱石の大学教授時代に、月が綺麗ですねと、I love youを訳したという説が好きだったので、それに対する返しを、他にも調べていたところに、100年後に咲く百合の花みたいですねという返しを知って、それの元ネタが何かなって調べたところ、夢十夜の第一夜に行き着いたという感じです。

<西口>漱石先生は、大変ロマンチックな男の人ですよね。言葉一つ一つがね。そしてそれを調べたっていうところもいいですね。では、西さんはどうですか。

<西>第三夜の怖い感じが好きだなって思いました。

<西口>どこの部分が特に怖いと感じました?

<西>100年前に殺したっていうところもそうなんですけど、殺した人を背負ってるっていう変な感じも、怖さを助長しているんじゃないかなって。

<西口>そうです。100年も経つね、みたいなことを大人の口調で子どもが言うね。恐ろしいですね。さっきのきれいな第一夜と、第三夜のおどろおどろしさは、対になっている感じがしますね。そこに100年っていう言葉が出てるんですよ。100年後に生まれ変わると、100年前に殺したって、何か意味があるのかしら。

<喜納>そもそも100年っていうところが気になってたところで、百合の花じゃないですか。最初読んでて気づかなかったんですけど、百合の漢字が百に合うって書いてるところが、後から気づいて、そこにもこだわってて面白いなって思ったっていうのはありますね。

<西口>そうよね。百年後に合うっていう百合ですもんね。きれいな花を持ってきたなと感心していて、そのうちにまたこの文字と思った発見は楽しいですよね。

<喜納>とても面白かったです。

<西口>同じ100年を使った100年前に、お前は私を殺したねっていう100年の意味を西さんはどう見てますか?

<西>50年とかだったら、まだ少し人間が生きられる時間じゃないですか、現実的に。50年とかだと、そこまで100年ほどの怖さは出ないんじゃないかなって思うんですよ。

<西口>本当だ。

<西>100年だから、前世とかそういう話になるのかなとか、そういうことを思ったりもできるなと思いました。

<西口>本当そうですよね。ちょっと100年後とか100年前って自分のこと想像できないですもんね。

<喜納>できないですね。

<西口>その100年はだから長い時間、永遠っていうことなんでしょうけど、思えばこの夢十夜を書いてから、今あなた方が読んでいるこの間って100年以上経ってるんですよ。その100年はだから長い時間、永遠っていうことなんでしょうけど、読んでどうです? 古く感じます? この作品。

<喜納>全然古くは感じなかったです。

<西口>西さんもそうですか?

<西>はい。ページをめくる手が止まらないっていうのがすごい陳腐な言い方ですけど、本当にそうだったんですよ。あの時代あたりの文豪小説って、言葉が難しかったりしてちょっと止まったりするじゃないですか。そういうのがもう本当に全然なくて、古いとは全然思えませんでした。

<西口>短いものであるっていうのもさることながら、内容がそれぞれ違って面白いですよね。第一夜と第三夜の話を今聞きましたけども、他に気になるものがあります?

<西>何夜だったか忘れたんですけど、笛を吹いてるおじいさんみたいなのがなかったですか? あれがどういうことなのかなって思って。

<西口>今、西さんはあのおじいさんの話を出してくれました。不思議なおじいさんなんですよね。呪文のような言葉を唱えながら、水に入っていって浮かんでこなかったみたいなね、今になる、きっと(蛇に)なるみたいな話。喜納さんもそこは気になりました?

<喜納>第三夜とはまた違った不思議さというか、少し不気味さとかも感じたんですけど、また深みがあって面白いなって思って読んでいました。

<西口>どこに帰るっていう時に、へそに帰っていくっていうところも、なんかこう生まれ変わりとか死ぬとかいう内容と重なっていくような気がしますね。第一夜と第三夜と今は第四夜の話だったけれど、全然違うもののようだけれども、そこを流れているのは同じものなのかも。どうです喜納さん?

<喜納>生まれ変わりとか輪廻転生みたいな考え方が根底に流れているのかなって思って、個人的にものすごく好みに刺さっています。

<西口>好みでしたか。西さんはどうです? そういう考え方を信じるタイプの女子高生ですか?

<西>ちょっと脱線するかもしれないんですけど、私が歴史の方で中心的にいろんな本を読んだりしているのが、インド関係なんですよね。輪廻転生ってインド発祥の考え方じゃないですか。だからそこら辺も面白いなと思って読んでました。

<西口>インドですか。そりゃ輪廻転生の話になっていきますよね。では、ドラマを作ったり映画監督になるとしたらですね、どの夢を使います? どうです喜納さん?

<喜納>欲張りになっちゃうんですけど、段階的に場面転換みたいな感じで全部つなげてみたいとか思ったりしますね。

<西口>重要ね。西さんも同じ?

<西>そうですね。誰か、第三者じゃないですけど、夢を見ている人みたいな感じの人がいて、その人が10個の夢の中をさっきはこうだったのにあれみたいな話になったら面白いなと思いました。

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