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「文鳥」想像した通りの結末、最後に漱石の人間らしさが<アイラヴ漱石先生朗読館=2022年11月20日放送>
#読むラジオおはようございます。本田みずえです。夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたい、そんな人たちに向けて書かれたガイドブック、アイラヴ漱石先生が、今年4月に発刊されました。夏目漱石は、第五高等学校の英語教師として、生まれ故郷以外の土地では最も長い4年3ヶ月を熊本で過ごしました。この番組では、そんな漱石先生の文学の面白さを、熊本の高校生の皆さんと探究していきます。今日は、九州学院高校3年生の木村心咲さん、佐藤涼花さんと、漱石の短編小説、文鳥の魅力を探っていきましょう。解説は、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんです。この番組は、NPO法人熊本漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石八雲教育研究センターの協力でお送りします。
「文鳥」
筆を擱(お)いて、そっと出て見ると、文鳥は自分の方を向いたまま、留り木の上から、のめりそうに白い胸を突き出して、高く千代と言った。三重吉が聞いたらさぞ喜ぶだろうと思うほどな美(い)い声で千代と言った。三重吉は今に馴(な)れると千代と鳴きますよ、きっと鳴きますよ、と受合って帰って行った。
自分はまた籠の傍(そば)へしゃがんだ。文鳥は膨(ふく)らんだ首を二、三度堅横(たてよこ)に向け直した。やがて一団(ひとかたまり)の白い体がぽいっと留り木の上を抜け出した。と思うと奇麗な足の爪が半分ほど餌壺の縁(ふち)から後(うしろ)へ出た。小指を掛けてもすぐ引っ繰り返りそうな餌壺は、釣鐘(つりがね)のように静かである。さすがに文鳥は軽いものだ。何だか淡雪(あわゆき)の精のような気がした。
<本田>朗読は木村心咲さんでした。それでは今日は、九州学院高校3年生の木村心咲さん、佐藤涼花さんと、漱石の短編小説、文鳥の魅力を探っていきましょう。まず作品の解説を、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんにお願いします。
<西口>漱石は1908年、明治41年の6月13日から21日の大阪朝日新聞に、この文鳥を掲載します。同年、ホトトギス10月号に転載しています。字数で言えば、12600字、400字詰めの原稿用紙で31枚半という小品で、やや随想寄りの短編小説と言えるでしょう。東京に移ってからも、教員時代の教え子や若手文学者が、漱石を訪ねてきました。その数があまりに多いので、門人の一人、鈴木三重吉の提案で、面会日を木曜日午後3時以降と定めました。木曜日の漱石の書斎は、そういった人々と様々なことを語り合い、議論し合う場となり、そのうちに木曜会と呼ばれるようになります。この作品は、三重吉に勧められ、文鳥を飼うことになった主人公漱石と小さな文鳥の物語。三重吉は、文鳥が「千代千代」と美しい声で鳴くこと、手に乗せた餌をついばむようになることを漱石に話します。そのことを楽しみにして、文鳥との生活が始まります。はじめは、あれこれと世話を焼いていたものの、そのうちに小説を書くことが忙しくなり、出かける用事も増えて、世話が行き届かず、とうとう死んでしまった文鳥を目にすることになるのでした。生き生きとした柔らかく可憐な文鳥、そして固く冷たくなった文鳥、この作品は漱石の写生が効いた作品です。そしてまた、ある女性との思い出がいく度も差し挟まれた、漱石流の感動的作品ともいえます。悲しみを悲しいという言葉にせずに、ただひたすら写生することに徹して、心の奥底を流れる悲しみの情を描いた小品、必読の書です。
<本田>ではここからは3人で、作品の魅力や感想についてお話ししていただきましょう。
<西口>はい、佐藤さん、木村さん、よろしくお願いします。
<高校生>よろしくお願いします。
<西口>さて、文鳥なんですが、小鳥を飼ったことがありますか?
<高校生>私はありません。私もありません。
<西口>ありません。ではこれ文鳥っていうタイトルを見たときに、想像ができました?
どんな鳥か。
<木村>私の中では、白い鳥のイメージを持っていました。
<西口>佐藤さんは?
<佐藤>私は白と黒のちょっと地味めな鳥かなって。
<西口>絵をね、写真を見るとそんな感じではあるよね。白い文鳥が流行って、私は小さい時に飼ったことがあって、兄が買ってきたその文鳥をすごく可愛がった経験があるので、本を読んだ時には、ああ、わかるって思ったんです。今は、いろいろ動画とかで調べられるけど、そんなことをしました?佐藤さん。
<佐藤>はい。この作品を読んだ後に、文鳥ってどんな鳥なんだろうって思って調べたんですけど、私が読んだ時に想像した鳥のままで、細かいところまで描写されていて、すごく表現力があると感じました。
<西口>漱石先生は表現力があると感じましたって、本当にそう。本物よりも、本当のものよりもさらに可愛かったり繊細に描いているのが漱石なんだろうなって思っています。
文鳥という作品を最初から知ってたんですか?今度取り上げたのはどうしてですか?木村さん。
<木村>私は初めて読みました。小説とかいうよりは、日記とか随筆みたいな感じなのかなって読みながら思ってたんですけど、平坦な中にも、漱石先生が持っていらっしゃる喪失感とかが隠れていたので、そこにすごく読みごたえがあるなって感じました。
<西口>佐藤さんも同じようなことを感じました?
<佐藤>はい。物語としては、文鳥を飼い始めてから、文鳥が死んじゃうまでの、読む最初から話の結末が分かっている状態で、想像した通りの話の結末だったんですけど、最後に漱石先生の人間らしさが見えました。
<西口>なんかね、季節が寒くなってからこの家にやってくるっていうのも、ちょっとそれを暗示している感じだったものね。確かに確かに。そしてとうとう死んでしまった。そこに人間味を感じたんですね。その人間味ということについて、ちょっと話を聞かせてもらおうかな。佐藤さんから聞こうか。
<佐藤>私は最後に文鳥が亡くなった時に、下女の少女にお前が餌を与えなかったから死んでしまったんだっていう、やつあたりをしている場面で、自分が文鳥を死なせてしまったっていうのは分かっていながらも、どこにもやり場のない感情を少女にぶつけてしまったところに人間味を感じました。
<西口>亡くなった後にね、三重吉に漱石は葉書を書くでしょ。自分のせいじゃなくてね、家の者がそうしてしまったんだみたいな。その葉書についてどう感じました?木村さん。
<木村>本当は自分のせいで文鳥を死なせてしまったっていうことは、自分の中で分かっていたはずだけど、罪悪感とかがあって、どこにもぶつけられない気持ちを手紙にぶつけてしまったのかなって。
<西口>三重吉が先生のせいですよ。みたいなことも言わなかったでしょ。それは残念でしたみたいな一言。それをもらった時の漱石の気持ちってどうだったろうか、木村さん。
<木村>漱石先生も本当は自分のせいだって分かっているし、三重吉も漱石先生のせいというか、行動によって文鳥が亡くなってしまったってことは分かっているけど、そこをあえてお互いに表に出さずに心の中に止めておくっていうのが鳥に対しての思いやりでもあるのかなって思いました。
<西口>いろんな優しさがそこににじみ出てて、読む私たちもしみじみとなってしまうところよね。もう一つね、女の人が登場するでしょ。所々に。あれは何なんでしょうね、木村さん。
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