デジタル弱者「不安」 行政手続きオンライン化 専門家「社会で支援を」

熊本日日新聞 | 2021年10月28日 12:41

LINE安全活用講座でスマートフォンの使い方を習う高齢者ら=10月、熊本市中央区

 「デジタル社会の実現」を掲げ、9月に発足したデジタル庁-。菅義偉前首相肝いりの組織で、マイナンバー制度の整備や行政窓口手続きのオンライン化に力を入れる。行政の効率化に欠かせない取り組みだが、パソコンやスマートフォンを使えない熊本県内の高齢者からは「ついていけない」とため息が漏れる。

 「『タップ』と言ったら指で押して。分からなかったら手を上げてくださいね」。10月中旬、熊本市中央公民館が主催する「LINE安全活用講座」で、高齢者8人がスマホの小さな画面をのぞき込みながら、悪戦苦闘していた。

 参加した同市北区の益中満さん(84)は「我々世代でスマホを使いこなせる人はわずか。どうにかして覚えないと…」。帰り際、タブレット講座の申込書も提出。同講座は定員10人に対し30人超が申し込む人気ぶりという。

 昨年の内閣府の調査で、70歳以上の6割弱が「スマホなどを使っていない」と回答。総務省は本年度、全国の携帯電話ショップや公民館など約1800カ所で、高齢者を対象にスマホやマイナンバーカードの使い方を教える方針だ。ただ、「今さら新しいことは覚えられない」という後期高齢者も少なくない。このような“デジタル弱者”問題が、新型コロナウイルスワクチンの予約時に浮き彫りになった。

 熊本市は5月に高齢者の予約を受け付けたが、ホームページ(HP)からの予約は伸びず、コールセンターに電話が殺到。HPは「同時に数千万人がアクセス可能」(同市)にもかかわらず、予約枠が埋まらない皮肉な結果となった。市は急きょ、公民館など23カ所に「予約サポートセンター」を開設。市職員やボランティア延べ2千人を配置してHPによる予約を手伝い、9千人超が利用した。

 植木公民館で予約した近くの上村イツ子さん(81)は「対面で手伝ってもらってありがたかった」。1人暮らしでパソコンはなく、携帯電話は“ガラケー”。一度はスマホを覚えようと購入したが、使いこなせず手放したという。

 政府は来年度末までに、健康保険証の再交付など31の行政手続きをオンライン化する方針。民間でもここ数年、キャッシュレスサービスが浸透した。上村さんは加速するデジタル化社会について「ついていけない高齢者が切り捨てられる」と不安を口にする。

 衆院選では各政党が「だれ一人取り残さないデジタル社会」を訴えているが、デジタル弱者を救済する具体策は見えない。熊本学園大の境章教授(情報科学)は「『一人も取り残さない』というのは理想論で、ワクチン予約サポートセンターのようなフォローは最後まで必要だ」と指摘。「弱者を支援するコストまで社会全体で負担しなければ、国民に優しいデジタル社会とは到底言えない」とくぎを刺した。(河内正一郎)

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