ジャパンライフ事件 「桜を見る会」の再検証を

2020年9月22日 07:11

 数百万円の磁気ネックレスなどの預託商法を展開し、2017年に事実上破綻したジャパンライフ(東京)を巡り、警視庁などの合同捜査本部は詐欺の疑いで、元会長山口隆祥容疑者と娘の元社長、熊本市南区の元幹部ら計14人を逮捕、送検した。

 捜査本部は同社が債務超過の事実を隠し、熊本を含む44都道府県の高齢者ら延べ約1万人から計約2100億円を違法に集めたとみている。預託商法の被害規模では、11年に破綻した安愚楽[あぐら]牧場の約4300億円に次ぐ。事件の全容解明と、70歳以上の契約が全体の7割を占めるとされる被害の回復が急務である。

 加えてこの事件の特異性は、山口容疑者を巡り、安倍晋三前首相をはじめ複数の政治家との関係が浮上している点にある。とりわけ安倍政権は15年、政府主催の「桜を見る会」に山口容疑者を招待。ジャパンライフはその招待状をチラシに印刷するなど、客の勧誘に利用していた。

 政府主催行事が詐欺事件の宣伝材料とされ、被害拡大につながったとすれば、捜査の推移とは異なる次元で、安倍前首相と政府には重大な政治責任がある。安倍氏と前政権の官房長官だった菅義偉首相は、山口容疑者を招待した経緯を含め、改めて桜を見る会全体の検証と説明を尽くすべきである。

 山口容疑者は、1975年にジャパンライフを設立。03年から高額な磁気ネックレスやベストを訪問販売で扱い、購入商品を会社に預ける「レンタルオーナー」になれば年6%の配当を得られると宣伝していた。来年にも法改正で原則禁止される販売預託商法の典型である。

 同社はまた、客が知人を勧誘すると報酬が得られるマルチ商法も取り入れた。勧誘のチラシやセミナーで強力な役割を果たしたとみられるのが、山口容疑者が政府主催の「桜を見る会」に招待されたという肩書だった。

 当時の安倍首相の推薦枠だったと指摘されたが、安倍氏は国会で「個人情報のため回答を差し控えている」と答弁するなど、事実関係を答えないまま辞任した。

 政府も招待者名簿は既に廃棄済みで、首相枠だったかどうか不明とする説明を繰り返している。事件摘発後も加藤勝信官房長官は記者会見で再調査に否定的な考えを示したが、その加藤氏自身、ジャパンライフの宣伝に顔写真が使用されていたという。

 菅首相はこれに先立つ16日夜、就任後初の会見で、桜を見る会を「来年以降中止したい」と表明した。中止は一つの考え方ではある。しかし、疑惑に一切ふたをしたままの幕引きは許されまい。

 共同通信社が16、17日に実施した緊急電話世論調査では、森友、加計学園や桜を見る会問題の再調査を求める回答は約62%に上っている。首相は初会見で「現場の声に耳を傾けて、国民に信頼される政府を目指す」とも述べた。ジャパンライフ事件を巡る対応は、その試金石になる。