寝たきり芸人、分身ロボで“出勤” 東京のカフェへ 熊本から遠隔操作で社会とつながり

熊本日日新聞 | 2021年09月27日 12:15

東京のカフェにいる分身ロボットをパソコンで操作する「あそどっぐ」こと阿曽太一さん=12日、合志市

 寝たきり芸人「あそどっぐ」として活動する阿曽太一さん(42)が、熊本県合志市の自宅で遠隔操作するのは分身ロボット。わずかに動く下唇でカーソル、左手の親指でクリックを操作し、客に飲み物を提供する。パソコンのモニター越しに映るその職場は、熊本から遠く離れた東京のカフェだ。

 筋肉が萎縮し、動かなくなる脊髄性筋萎縮症の阿曽さんは「生まれて初めてのアルバイト。売れない芸人はバイトするものだから、これでいっぱしの芸人」と笑う。

 新型コロナウイルス禍で移動が制限され、人と人のつながりも希薄になりがちな昨今。障害者など外出が困難な人たちが、分身ロボットによって社会とのつながりを持ち始めている。

下唇でカーソル、左手の親指でクリックを操作し、東京のカフェにいる「OriHime(オリヒメ)」を動かす芸人「あそどっぐ」こと阿曽太一さん=12日、合志市
客に飲み物を運び、接客するロボット「オリヒメ」(オリィ研究所提供)

 「お疲れさまです。あそどっぐでーす」

 日曜日の午後3時。寝たきり芸人「あそどっぐ」として活動する阿曽太一さん(42)は、合志市の自宅のベッド上から東京のカフェに“出勤”した。

 阿曽さんが操作するのは、身長約120センチの分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」。カメラやスピーカーが内蔵されており、阿曽さんのパソコンには、オリヒメから見たカフェのバックヤードの風景が映し出された。

 阿曽さんは、バックヤードで待機していたほかのオリヒメや現場スタッフと「シフトは何時までですか」「ワクチン打てました?」と談笑。飲み物が出来上がると画面上のコントローラーでオリヒメを移動させ、客にコーヒーや紅茶を届けた。

 阿曽さんが働く「分身ロボットカフェDAWN ver.β(ドーン バージョンベータ)」は、オリヒメを開発した「オリィ研究所」(東京)が、常設実験店として6月にオープン。重度障害で寝たきりの人や、子育てや介護で外出が難しい人など、約60人がオリヒメの操作者として働く。

 阿曽さんは「オリヒメの操作は簡単で、楽しんで働けている。地方に比べて時給も良い」と張り切る。

 新型コロナウイルス禍で制約された生活が続く中、分身ロボットはさまざまな場面で注目されている。

 番組制作会社「ドキュメンタリージャパン」は、分身ロボを使って海外取材を敢行。ANAホールディングス(HD)の関連企業は今夏、分身ロボで観光施設を擬似的に旅行できるサービスを企画した。分身ロボやCGによる接客サービスの実用化を進める企業も出始めるなど、働き方からレジャーまで活用の場は増えつつある。

 そんな中、オリィ研究所が目指すのが、テクノロジーを駆使した新たな社会参加の実現だ。遠隔操作やコミュニケーション支援で「移動」や「対話」の課題を解消し、肉体労働や接客などの「役割」を得る。研究所の吉藤オリィ(本名・吉藤健太朗)所長は不登校の経験から「孤独の解消」を開発目標に掲げ、テクノロジーによって社会とのつながりを生み出す。

 昨年末、熊本市で講演した吉藤さんは「コロナで孤独を感じる人が増えており、離れていても一緒に何かできる仕組みを増やしたい」と強調。「自分の意思でロボットを動かし、人や社会の役に立つことが、生きる理由になる」と語った。

 寝たきり生活を送り、カフェDAWNで働く大学1年の中島寧音さん(19)=福岡県=は「自力で行ける範囲は狭くても、オリヒメがあれば人とのつながりが広がる。お客様の笑顔を見るのがやりがい」と意気込む。

 分身ロボットの操作者の中には、介護などで外出の時間も取りにくい人や海外に住む人もおり「障害者だけでなく、いろんな人が一緒に働けるのが魅力」と阿曽さん。ロボットを通じた新たなコミュニケーションは、誰もが自分らしく生きるための可能性を広げている。(深川杏樹)

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