熊本県出身の日本人妻、58年ぶり姉妹再会を映画に 妹の訪朝、ドキュメンタリーで 現地の日常も紹介

熊本日日新聞 | 2021年08月15日 11:20

北朝鮮を訪ねる林恵子さん(右)と次男の真義さん=2018年6月、平壌郊外(日本電波ニュース社提供)

 熊本県出身で神奈川県在住の林恵子さん(70)が、北朝鮮に渡った姉の中本愛子さん(89)=菊池市出身=と58年ぶりに再会を果たした様子を収めたドキュメンタリー映画「ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。」(115分)が完成した。時代によって激しく揺さぶられた姉妹の紆余[うよ]曲折を描いた。

 中本さんは、日本による朝鮮半島の植民地支配に伴い、国内に残った在日朝鮮人と結婚した。他の日本人妻や在日朝鮮人ら9万3千人が参加した「帰国事業」(1959~84年)で北朝鮮へ渡航。約20年前に実施された日本への一時帰国事業への参加が決まっていたが、日朝関係の悪化で事業は中止された。

 一方、林さんは約20年前に姉からの金銭の催促を断って以来、姉との連絡が途絶えていた。2017年にニュースで偶然、姉が生きていることを知る。報道関係者の誘いを受け、姉の要望を断った負い目を抱えながらも翌年、訪朝した。

在日朝鮮人と結婚し「帰国事業」で北朝鮮に渡った中本愛子さん=2018年2月、北朝鮮東部咸興(日本電波ニュース社提供)

 映画では、そんな2人の劇的な再会の様子を、北朝鮮の「日常の風景」とともに紹介する。タイトルの「ちょっと北朝鮮まで」は、地理的には近いが、政治情勢から気楽に行き来はできない国を逆説的に表現した。

 日本電波ニュース社(東京)が制作。今月下旬から東京などで順次公開され、県内ではDenkikan(熊本市)で上映予定。(高宗亮輔)

 しまだ・ようま 1975年、埼玉県出身。早稲田大卒。テレビディレクターとして、2003年のイラク戦争など、国内外で取材してドキュメンタリー番組を制作。『二つの戦争・翻弄された日本兵と家族たち』(15年朝日放送)で坂田記念ジャーナリズム賞を受賞した。

◆「帰国事業」の背景知って 島田陽磨ディレクター

 戦後の日朝関係に翻弄[ほんろう]された県出身の姉妹を描いた映画が完成した。撮影や監督を務めた日本電波ニュース社の島田陽磨ディレクター(45)は「『帰国事業』の歴史や背景について知ってもらいたい」と話し、最近出てきた日本人妻の「自己責任」を問う風潮への懸念を示した。

 在日朝鮮人や日本人妻の「帰国事業」は、日朝双方の思惑によって始まった。日本側には、生活保護や医療扶助費が高い在日朝鮮人を“厄介払い”する意図もあったとされる。

 当時、北朝鮮は就職や教育の機会が保障された「地上の楽園」と持ち上げられ、熊本県を含む地方議会は事業の促進を決議し、メディアも後押しした。

 しかし近年、帰国事業や日本人妻について報じる熊日などの記事に対しネット上では、「(日本人妻たちは)自らの意思で渡航したのでは」などのコメントが寄せられている。

 これに対して島田さんは「日本人妻は時代の空気に押し出された面もある。現代から断罪するのはおかしい」と訴える。

 日本国内では、ミサイル発射や軍事パレードなどの報道が目立つ北朝鮮だが、映画では往来する市民や沿道の風景など現地の日常を映した。北朝鮮当局の担当者が取材を制止する場面も収めた。

 島田さんは「北朝鮮市民の喜怒哀楽を知ることで、北朝鮮市民への見方も変えてほしい」とした。(高宗亮輔)

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