水俣病65年 実情に見合う補償運用を

05月01日 09:12

 1956年5月1日、水俣市にあったチッソ付属病院の医師たちが、「原因不明の疾患の発生」を水俣保健所に届け出た。これが後に「水俣病の公式確認」と言われるようになり、きょうで丸65年となる。

 65年。赤ちゃんが高齢者と言われるようになる歳月の長さだ。それだけの時間を費やしても「公害の原点」とされた水俣病を解決できない現実を、国や県、原因企業チッソ、そして私たち国民は重く受け止めなければならない。

 チッソの工場排水に含まれるメチル水銀に胎内でさらされた水俣市の坂本しのぶさんら一部の胎児性患者も、今年で65歳になる。行政が水俣病と認定し、チッソとの協定に基づき補償を受ける患者だが、協定内容だけでは補いきれない将来の不安を抱えている。

 大きな不安の一つに、身体機能の低下がある。自力歩行ができなくなり、車いすが欠かせなくなった患者は多い。そうした中、患者たちを物心両面から支えてきた親世代の死去も相次いでいる。大きな支えをなくした患者たちの心細さは、察するに余りある。

 A~Cに分けられている年金などの補償ランクが、個々の患者の実情に見合っているか、小まめに見直すのは当然だ。だが、現行の運用実態がそれに十分応えているとは言い難い。不安を和らげる工夫を重ねることはチッソだけでなく、2004年の最高裁判決で水俣病の被害拡大責任が確定した国と熊本県の責務でもある。

 一方、胎児性患者らと同時期に、同じ地域で生まれながら水俣病と認められない水俣病被害者互助会の人たちは、患者認定と国家賠償を求める二つの訴訟を続けている。

 患者に認定されるかどうかで補償も左右されるが、この世代の健康被害には未解明の部分も多いとされる。水俣病研究に力を注いだ故原田正純医師は、代表的な症状である感覚障害が認められない胎児性患者もいると指摘した。彼らの一部は子どものころ一定の健康調査を受けており、追跡調査をすれば実態解明が進む可能性もあるが、残念ながらそうした研究や取り組みは不十分だ。

 09年施行の水俣病特別措置法は不知火海沿岸住民の健康調査をするよう定めた。にもかかわらず、国は一向に実施せず、いまだに脳磁計などを用いる「客観的診断手法」の開発を進めているとする。これでは、水俣病かどうかの判断に役立つことはあっても、被害の全容解明には程遠い。

 4月30日現在の認定患者は熊本県1790人、鹿児島県493人。これ以外に2度の未認定被害者救済策によって、両県で5万人近い人が一定の救済措置を受けた。

 ただし、これらは自ら申請した人たちだ。県外に就職して高齢となり、体調悪化を別の疾患と思い込んでいたり、チッソへの配慮から申請できなかったりする被害者もいるはずだ。国・県は健康調査を早急に実施し、被害の実態と広がりを解明すべきである。

記事アクセスランキング

  1. ${ranking.title}

※アクセス数(24時間以内)を元に集計

フォローする

  • facebook
  • twitter
  • LINE
  • youtube
  • note