世界に一つだけの村をつくろう。2022年5月、高森町下切地区に開村した「くまTOMO自然村」は今年で3周年を迎えます。これまで延べ千人ほどのくまTOMOサポーター家族らが、阿蘇の伝統的な農業や暮らしの知恵を、地元で受け継ぐ農家から学んできました。今回は新年を控え、収穫を祝いながら冬支度する農村の営みを体験しました。(河北希、藤山裕作、谷川剛)
下切地区は宮崎県境にある山あいの集落。昨年10月、自然村の村長を務める農家甲斐好夫さん(78)の納屋の壁一面が、鮮やかなだいだい色に染まっていました。阿蘇の秋の風物詩、地トウキビの掛け干しです。在来種のトウキビで、保存食や牛の飼料として重宝されてきましたが、近年は人工飼料の普及や農家の減少で姿を消しつつあります。
毎年5月ごろに植え、9月上旬の収穫。葉を少し残して6本ずつわらで束ねて、壁に渡した竹につるします。寒風に当てると乾燥が進み、採れたての黄色からだいだい色へと変化。12月ごろまで干します。
自家用に回すコメが少なかった昔は、乾燥した実を石臼でひいて粉にし、白米に混ぜて炊く「トウキビ飯」が貴重な主食でした。残ったトウキビの芯や葉も、五右衛門風呂などの燃料にして、無駄にしません。
くまTOMOサポーターも掛け干しの技を体験。トウキビは隙間なくつるして、秋色の〝カーテン〟を完成させました。実を一粒一粒外す作業は、ポロリと取れる感覚が病みつきに。「重ーい」と石臼を力いっぱい回し、当時の苦労を実感しました。粉はもち米と混ぜ、地元住民と「トウキビ餅」を作りました。
一方、火山灰土壌で栽培されるサトイモの一種「つるのこ芋」。形がツルの頭に似ていることからその名が付き、地元の名物「高森田楽」に使われます。冬を越すため、土の中に埋めて保存するそう。これも昔ながらの方法です。
下切地区でも過疎化や後継者不足は深刻。「学んだ子どもたちが伝統を伝えてくれたらうれしい」。自然村には甲斐さんの思いがあふれています。
収獲祭 自然の恵みに舌鼓 命の授業 イノシシの肉も
くまTOMO自然村で昨年11月、恒例の「収穫祭」が開かれました。地元住民やくまTOMOサポーターら約70人が集い、山から切り出したスギを燃やしたおき火を囲んで交流しました。自然の恵みに感謝し、新たな年の豊作を祈りました。
まずは竹を削って箸づくり。さらにヤマメを串に刺し、みそを塗ったつるのこ芋と豆腐を炭火の周りに並べ、郷土料理「高森田楽」の下ごしらえをしました。
地元で捕獲したイノシシのかたまり肉も、回転させながらじっくり焼きます。甲斐好夫村長らによる「命の授業」では、「近年イノシシが増え、田畑を食い荒らす被害に農家が困っている。駆除した命はおいしくいただいてきた」と教わりました。
地元の野菜を使った漬物や新米のおにぎり、トウキビ餅、だご汁、鶏肉のたれ焼き…。たくさんのごちそうがずらり。合志市立西合志南小5年の橋口羽夢さんと熊本市立東町小5年の高岸凛さんが〝開幕宣言〟し、みんなで命を大切にいただきました。
最後に、熊本市のシンガー・ソングライター桜伊織(本名・西山正博)さんによるコンサートもあり、「Try(トライ)~くまTOMOの歌~」や童謡をみんなで大合唱。里山に歌声が響き渡りました。
新たな探究 「S+」で挑戦
「本物の体験」「新たな探究」に挑戦しよう。くまTOMO編集室は昨年7月から、学びのコミュニティサイト「S+」を開設しています。地域や専門機関と協力して子どもたちに特別な体験を提供するとともに、投稿機能を使って互いに交流し学びを深めます。また、企業と連携する「おしごとランド」は、さまざまな担当者に直接質問できる〝職業図鑑〟です。
くまTOMOでは、自然村をはじめ、海上保安官体験、プログラミング教室、走り方教室など年間20以上の特別な体験イベントを企画。「S+」では、参加を受け付け、事前学習の動画などを視聴できます。限定150人の交流プランメンバーは投稿機能を使って感想などを発信。イベント参加だけでなく、ほかの意見にも耳を傾けながら、主体的に学ぶ姿勢を身に付けてもらう狙いです。
「おしごとランド」は、さまざまな職業人にスポットをあてて、仕事の魅力に迫ります。連携する熊本県内のパートナー企業・団体の担当者に質問できるため、キャリア教育に役立ちます。
くまTOMO「S+」のパートナー企業・団体
▽杉養蜂園▽九州松栄産業・しょうぶ苑グループ▽熊本学園大▽ホテル日航熊本▽肥後銀行(以上、熊本市)▽新栄汽船(上天草市)▽南阿蘇鉄道(高森町)
S+ブログから
乾燥させた地トウキビを石臼ですりつぶすのは、まるでゲームの「マインクラフト」の世界みたいだね!と盛り上がりました。コロナ禍で体験する機会が減っていたもちつきは、娘(蓮花さん)にとって初めて。
収穫祭で鳥獣被害の話を聞きました。「山里の住民も生き物も互いに命をつないでいくための選択をしながら生き、私たちもそのおかげで野菜を手にしたりお米を食べることができるんだ」と子どもに話しました。(熊本市立碩台小1年、川上蓮花さん家族)
見たことのない地トウキビの黄色いカーテン。何色と何色を混ぜたら、こんなに濃く、美しい色が出来るんだろうと、自然が作る物のきれいさにおどろきました。かざりだと思っていたら、外し方のコツを教えてもらい、トウキビを一粒一粒バラバラにし、石臼でひきました。ひいたものをおもちに入れ、トウキビもちにしました。つきたては熱かったけど、やわらかくて、いつも食べるおもちよりおいしかったです。(合志市立西合志東小2年、小幡優結さん家族)
ぼくは、イノシシのおにくのまるやきが食べたくて、しゅうかくさいに行きました。まず、竹のおはし作りをして、こがたなを動かさずに竹を動かして作るのがむずかしかったです。ぼくは5分くらいかけて作ったのに、かいさんは10秒もかからずすごい。
ヤマメをくしにさすのはぼくも上手にできました。
たのしみだったイノシシのまるやきは少しかたかったです。でも、たべるきかいがなかったからよかったです。(阿蘇市立内牧小2年、牧颯太朗さん家族)