夕日の道　作・チェリー　＜くまにち童話＞

　「また日にち曜よう日びが終おわってしまう」。長ながく伸のびた影かげを砂すな浜はまに落おとして少しょう年ねんはつぶやいた。「もっと昼ひるが長ながくならないかなぁ。もっともっと遊あそびたいなぁ」

　沖おきの方ほうでは大おおきくなった夕ゆう日ひが海うみへ帰かえろうとしている。少しょう年ねんがその光こう景けいを見みつめていると、キラキラした海うみの上うえにひときわ鮮あざやかなオレンジ色いろの道みちが現あらわれた。少しょう年ねんは夕ゆう日ひを追おいかけてその道みちを駆かけ出だした。「待まって！　まだ沈しずまないで！」

　海うみの上うえをどんどん走はしって行いく少しょう年ねん。すると海うみの中なかから声こえが聞きこえてきた。少しょう年ねんは足あしを止とめて耳みみを澄すました。「いよいよ始はじまるね」「早はやく暗くらくならないかなぁ」「楽たのしみだね、夜や光こう虫ちゅうの花はな火び大たい会かい」「今こん夜やは星ほし月づき夜よだって父とうさんが言いってたから、空そらも海うみもひとつになるんだろうね」。少しょう年ねんは海うみの中なかの花はな火びを見みてみたい気き持もちにかられたが、長ながい昼ひるがあきらめきれず、また夕ゆう日ひを追おって海うみの上うえを走はしり出だした。

　しばらくすると陸りくに上あがり、山やまへとたどり着ついた。森もりの中なかを走はしっていると、楽たのしそうな声こえが聞きこえてきた。「今こん夜やは願ねがいごと五いつつ持もってきたよ」「僕ぼくは七ななつだよ」「またたくさん見みつけられたらいいね、流ながれ星ほし」「うん、早はやく夜よるにならないかな」。少しょう年ねんは流ながれ星ほしを見みたことがなかったので、一いち度ど見みてみたいと思おもっていた。しかし、少しょう年ねんはまた夕ゆう日ひを追おいかけて走はしり出だした。

　気きがつくと山やまを越こえ、街まちに出でていた。夕ゆう方がたの満まん員いん電でん車しゃが重おもたそうに走はしってゆく。家いえ々いえにはぽつぽつと明あかりが灯ともり始はじめる。カレーライスのいい匂においが流ながれてくる。遠とおくで「ご飯はんだよ。帰かえっておいで」と声こえがする。どこか聞きき覚おぼえのある声こえだ。少しょう年ねんは走はしるのをやめ、ゆっくりと歩あるき出だす。

　目めの前まえに夕ゆう焼やけの海うみが現あらわれた。砂すな浜はままでたどり着ついた少しょう年ねんは、置おき去ざりにしていた自じ分ぶんの長ながい影かげに足あしを重かさねた。するとその瞬しゅん間かん、あたり一いち面めんは夜よるに変かわり、星ほしが流ながれ出だした。少しょう年ねんは足あし下もとの貝かい殻がらを海うみに放はなった。「ポチャン」。潮しお騒さいにまぎれて小ちいさな音おとがした。その音おとを合あい図ずに海うみの花はな火び大たい会かいは始はじまった。少しょう年ねんは砂すなの上うえに腰こしを下おろして、しばらく夜よるの海うみと空そらを眺ながめながら時ときを過すごそうと思おもった。

　こうして今日きょうも、夜よるが始はじまった。（作さく者しゃは八やつ代しろ市し・元もと教きょう員いん・62歳さい）