織田信長の書状、永青文庫と熊本大が発見 細川藤孝宛て、畿内領主の組織化を依頼
公益財団法人永青文庫(東京都)と熊本大永青文庫研究センター(熊本市中央区)は6日、織田信長が肥後細川家初代・細川藤孝(幽斎、1534~1610年)に宛てた新たな書状を発見したと発表した。室町幕府が滅亡する約1年前から、15代将軍足利義昭の側近だった藤孝が信長と内通し、畿内の有力領主たちの組織化を進めていたことなどが分かる。室町幕府が滅亡に至る経緯を知る上で貴重な史料だ。
調査した同センター長の稲葉継陽教授(日本中世・近世史)によると、書状は元亀3(1572)年8月15日付で、信長の右筆[ゆうひつ](代筆役)が書いたとみられる。2022年8月に永青文庫収蔵庫の資料調査をしていたところ、木箱の中に軸装された書状を発見。内容や花押の特徴から年代を特定し、右筆の筆跡や封をした跡などから原本と特定した。
信長は書状で、義昭の側近衆のうち、藤孝だけが今年も贈り物をするなど例年通りの付き合いをしてくれることに感謝した上で、山城・摂津・河内(現京都府、大阪府)の領主たちを味方に引き入れてほしいと依頼。「いまこそ大事な時です。あなたの働きこそが重要なのです」とも書かれ、義昭側近衆の中で唯一、藤孝を頼りにしていたことが分かる。
もともと藤孝が義昭と信長を結び付けて幕府体制が再興されたが、その後、義昭側近衆と信長が対立。元亀4(1573)年2月と7月に義昭が2度挙兵するも畿内の領主層を結集できず、京都から没落。室町幕府の滅亡へとつながった。
書状からは、義昭が挙兵する前年の初めから側近衆と信長の関係が悪化していく中で、藤孝だけが信長と通じていたことが判明した。さらに、挙兵の半年前から信長は畿内領主層の組織化を藤孝に水面下で依頼。挙兵は失敗に終わり、結果として藤孝の働きが信長の覇権につながった。
6日、文部科学省(東京都)で稲葉教授と、細川家19代の護光・永青文庫理事長が会見。稲葉教授は「室町幕府が滅亡へと至る政治史を読み解く上で欠かせない事実を、信長自身が語った一次史料。戦国期から豊臣期、徳川初期を通じて藤孝が果たした役割がさらに検討され、重要な時代の政治史にしっかり組み込まれてほしい」と話した。
永青文庫所蔵の信長発給文書は60通となり、本書状を除く59通は2013年に国重要文化財に指定。最も年代が古い本書状も国重文指定を目指す。本書状は10月5日から永青文庫(東京都)で始まる展覧会で一般公開する。(前田晃志)
細川護光・永青文庫理事長 目白台(東京都)の収蔵庫に未調査の史料が残っているのは知っていたので、いずれ何か出てくるだろうとは思っていたが、信長の書状と聞いて驚いた。今回の発見で信長とその時代の研究が一層進むことを期待したい。10月の展覧会も多くの方にご覧いただき、室町から江戸へ時代が変わる歴史の真実を感じ取ってもらえたらうれしい。
書状の現代語訳
八朔[はっさく](8月1日)の祝儀の詞を承りました。わけても帷子[かたびら]2着を送っていただき、その懇切ぶりに感謝します。今年は「京衆」(将軍義昭の奉公衆)は誰一人として手紙や贈物をよこしてきません。その中にあってあなたからは、初春にも太刀と馬とをお贈りいただきました。例年どおりにお付き合いくださり、この上なくめでたいことです。鹿毛[かげ]の馬を贈ります。乗り心地は悪くないと思います。あなたには方々で骨を折っていただき心苦しいのですが、いまこそ大事な時です。「南方辺」(山城・摂津・河内方面)の領主たちを、誰であっても、信長に忠節してくれるのであれば、味方に引き入れてください。あなたの働きこそが重要なのです。なお、具体的には他の案件と一緒にお伝えします。
8月15日 信長から細川藤孝殿へ
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