阿蘇山上の廃屋2棟、撤去へ 熊本・南阿蘇村、国・県と協力 火口周辺の景観向上目指す
国内外から観光客を集める阿蘇中岳火口周辺の景観向上を目指し、熊本県南阿蘇村は火口から約1キロに位置する阿蘇山上広場の廃屋2棟の撤去に乗り出す。環境省、熊本県とともに2021年から協議を進めていた。費用は約3億8千万円を見込み、主に国や県の補助金を活用して撤去する。
廃屋2棟は山上広場の村有地にある元ドライブインと元飲食店で、敷地面積は計約1600平方メートル。いずれも地元業者が1960年代後半に開店し、旧阿蘇山ロープウェー乗り場近くで観光客らを相手に営業していた。熊本地震の前後に休業し、放置されていた。火口見学の玄関口に位置することから、地元や観光客から「みっともない」「どうにかしてほしい」と苦情が出ていた。
村は、県や阿蘇くじゅう国立公園を管理する環境省九州地方環境事務所などと協議。廃屋の所有者が会社清算中などで解体する体力がないため、村は所有者から建物の無償譲渡を受け、撤去を進める方針。
環境省は国立公園利用拠点滞在環境等上質化事業で費用の2分の1を、県は国立公園満喫プロジェクト推進事業で4分の1を補助。村負担分の約1億円は、主に合併特例債を活用。返済額の7割を国が負担するため、村の実質負担は約3300万円となる見通し。村は10日、関連予算案を定例村議会に提出した。
阿蘇郡市7市町村とともに「阿蘇」の世界文化遺産登録を目指す県は、「阿蘇の世界的な価値を訴える中で、廃屋撤去は景観保全と魅力向上につながる」と歓迎。村は「世界に誇れる阿蘇づくりに貢献し、観光客を迎えたい」としている。(宮崎あずさ)
●観光地の魅力向上へ追い風、財源は「国際観光旅客税」
南阿蘇村が熊本県や環境省と阿蘇山上広場の廃屋2棟の撤去に乗り出した。一帯は阿蘇中岳火口の玄関口で草千里にも近く、多くの観光客を引きつける重要なエリアだ。長年の懸案である廃屋の撤去は、阿蘇観光の魅力向上への追い風になりそうだ。
「阿蘇の国立公園として価値を落としている」。環境省阿蘇くじゅう国立公園管理事務所は、窓ガラスが割れ、寂れた雰囲気を漂わせる廃屋を長年問題視してきた。2009年には村と県、阿蘇市が公費などで別の廃屋2棟を撤去済み。今回の撤去で山上広場一帯に目立った廃屋はなくなる。
環境省は、訪日外国人の増加やブランド力向上を目指し「国立公園満喫プロジェクト」を展開。国立公園の魅力を活用し、大都市に集中しがちな訪日客を地方に誘導する狙いがある。財源は19年に始まった、日本からの出国者に1人千円を課す国際観光旅客税(出国税)を充てる。
廃屋撤去に使う国の補助金は、行政と民間事業者らが策定する利用拠点計画に基づく、地域一体となった施設整備と民間投資の呼び込みなどが前提。環境省と県、阿蘇市、南阿蘇村、事業者らは既に計画策定を終えている。民間による投資について南阿蘇村は、「飲食だけでなく阿蘇の文化や自然保護を学ぶ場などを想定している。多くの人の意見を聞いた上で、拠点にふさわしい企業を募りたい」という。
前回、廃屋2棟を撤去した際、費用を行政が負担することに疑問の声もあった。阿蘇くじゅう国立公園管理事務所は「撤去は今の時代に沿った観光拠点に再編成することに寄与する。阿蘇の良さを伝え、ひいては地域活性化に貢献する効果が期待できる」と説明する。(宮崎あずさ)
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