「消滅可能性自治体」県南に集中…10年前と構図変わらず 県、工業団地整備や振興策で格差解消めざす

熊本日日新聞 2024年5月26日 22:30
「消滅可能性自治体」県南に集中…10年前と構図変わらず 県、工業団地整備や振興策で格差解消めざす

 経済界有志らでつくる「人口戦略会議」が4月に示した「消滅可能性自治体」。若い女性の減少幅を基に、熊本県内の18市町村を「消滅の可能性がある」自治体と位置付けた。当該自治体は、県南部を中心に山間地や天草地域に集中しており、これまでも指摘されてきた県土の「南北格差」を裏付けた形だ。

 人口戦略会議の資料によると、18市町村は、水俣市、上天草市、天草市、美里町、和水町、小国町、産山村、高森町、山都町、氷川町、芦北町、津奈木町、多良木町、湯前町、相良村、山江村、球磨村、苓北町。

 10年前の前回分析から、人吉市、長洲町、あさぎり町、南関町、南阿蘇村、甲佐町、錦町、水上村、五木村の9自治体が消滅可能性自治体から脱却し、新たに産山村が追加された。県南部や山間部に集中する構図は変わっていない。

 消滅可能性自治体は、子どもを産む中心世代となる20~30代の女性が、2020年から50年にかけて50%以上減ると推計された市町村。若年女性の人口は、県内45市町村の全てで減る見通しだが、34市町村は前回と比べて減少率に改善がみられている。

 一方、減少率が20%未満と、百年後も若年女性が半分近く残る「自立持続可能性自治体」は、合志市、大津町、菊陽町、南阿蘇村、御船町、嘉島町、益城町の7自治体。熊本都市圏域周辺であることに加え、菊陽町への台湾積体電路製造(TSMC)進出に伴い、半導体関連産業の立地が相次ぐ周辺市町村へ及ぼす影響の一端が見て取れる。

 経済面に加え、地域の人口動態にも表れた県土の南北格差。県南部は熊本都市圏域や熊本空港などへのアクセスが難しく、地域の活力となる企業立地が鈍いとされてきた。

 こうした格差の解消と均衡ある発展、人口流出対策として、県は今後、八代地域に新たな県営工業団地の整備を進めるとともに、県南地域の農水産物を生かして食関連産業の活性化を図る「県南フードバレー構想」などの振興策も継続的に取り組む考えだ。(丸山宗一郎)

「消滅可能性自治体」県南に集中…10年前と構図変わらず 県、工業団地整備や振興策で格差解消めざす

 ◆〝消滅〟免れた南阿蘇村と五木村、移住推進や子育て支援策充実が好影響

 前回分析で消滅可能性自治体と名指しされた南阿蘇村と五木村は、若年女性人口の減少率が大きく改善し、再度の指摘を免れた。

 南阿蘇村は45・1ポイント改善の5・9%減、五木村は45・3ポイント上昇し30・8%減に減少率を圧縮した。両村は、共に移住推進や、定住に向けた子育て支援策の充実が好影響をもたらしたと分析。具体的には、空き家の利活用促進、高校生までの医療費無償化、不妊治療費助成などを挙げた。

 消滅可能性自治体を脱した9自治体でも、若年女性人口の減少率が「消滅可能性」ラインの50%以上に近い自治体は多い。南関町は49・6%、人吉市47・6%、あさぎり町46・7%など5自治体が40%台だった。

 県内全市町村のうち、減少率が最も大きかった自治体は、豪雨災害にも見舞われた球磨村の75・2%。以下、相良村70・7%、芦北町63・3%、美里町62・7%と続いた。

「消滅可能性自治体」県南に集中…10年前と構図変わらず 県、工業団地整備や振興策で格差解消めざす

 ◆住民の幸せ大切にする政策を 熊本大文学部・牧野厚史教授

 人口戦略会議が公表した消滅可能性自治体は、熊本県南部を中心に山間地域の自治体の多くが対象となった。「消滅の可能性」と指摘された地域の未来をどう考えればよいか。環境社会学・地域社会学が専門の牧野厚史・熊本大文学部教授(63)に聞いた。(丸山宗一郎)

 -「消滅」という言葉は危機感を抱かせます。

 「まず言っておきたいのは、自治体が消滅することはあり得ない。どの地域でも必ず戻ってくる人がいるからだ。『消滅』という言葉に違和感はあるが、人口減少を真剣に考えてもらうために、あえてこの言葉を用いたのではないか。調査の根拠となった若年女性人口の減少幅が、50%以上になったかどうかで一喜一憂する必要はない」

 -日本の人口減少の流れはいつ頃からか。

 「1970年代には人口が減っていくことは分かっていた。この時点で対策を打てばよかったが、平均余命が長くなる中、国も危機感が薄かった。日本の人口が1億人を超えたのは60年代末から。1億人時代の期間そのものは、まだ短い」

 -人口減の背景は。

 「平成の市町村合併の影響はある。中山間地は、役場、学校などが地域の中心部に統合された。関係する人たちが周辺部の旧町村域から出て行くのに拍車がかかったことは否めない」

 -国や県の責任は。

 「国や県も過疎対策のやりようがなくなっているのではないか。現場を知る『目』として地方自治体を頼りにしていたが、合併で広域化し、行政が人々の暮らしから遠くなった。国も県も地域の実態をつかもうと、試行錯誤している」

 -現状にどう向き合えばよいか。

 「人口は、どこも確実に減っていく。各自治体は、今いる住民の幸せを大切にする政策を重視すべきだ。少子高齢化が進んでも、楽しく生活できるようにするには、どうすればよいか考えることに意味がある」

 -住民にできることは。

 「合併でリセットされた旧町村ごとに、地域づくりの遺産がある。もう一度、その遺産を振り返ってほしい。地域づくりが活発なところは、現行の自治体の範囲より、さらに小さい単位で動いているケースが多い。過疎と指摘されても、何か魅力があるから今も人が住んでいる。魅力をさらにプラスすることはできるはずだ」

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