九州の大学、半導体の人材育成に本腰 熊本大は新学部、九州大は育成センター

熊本日日新聞 2024年5月9日 06:05
データサイエンスや人工知能をビジネスに取り入れる際の倫理について考える学生ら=4月15日、熊本市中央区
データサイエンスや人工知能をビジネスに取り入れる際の倫理について考える学生ら=4月15日、熊本市中央区

 菊陽町に進出した台湾積体電路製造(TSMC)など国内で半導体関連企業の集積が進む中、九州内の大学は新たに学部や組織を設け、人材育成に本腰を入れている。熊本大(熊本市中央区)は4月、75年ぶりに学部相当の「情報融合学環」を設置。人材需要が高まる半導体やデジタル分野に一人でも多くの卒業生を送り込もうと、各大学は知恵を絞っている。

 「AI(人工知能)やデータサイエンス(DS)を活用した新ビジネスを手がける時、倫理を考慮しなかったらどのようなことが起こりそうですか」。4月中旬、熊本大の「DS倫理」の授業で、学環の喜多敏弘教授が1期生に問いかけた。社会的な批判を受けてサービスの中止に追い込まれる、企業の信用が下がる、個人情報が流出する…。学生らは多くの意見を上げた。

 半導体分野の〝人気〟は数字に表れている。学環の一般入試前期日程の倍率は3・8倍で、平均より1・4ポイント高かった。

 「将来はセキュリティーエンジニアになりたい。情報系以外にもいろいろな学部の科目を受けられるので入学を決めた」と1期生の嶋本渚沙さん。同級生の大庭佳子さんは「地方と都市のデジタル格差を減らすことができる人になりたい」と夢を描く。

 同大では4月、工学部に「半導体デバイス工学課程」を設置。2025年度には大学院の自然科学教育部に「半導体・情報数理専攻」をつくる。27年度までに、150人以上の専門人材の輩出を目標に据える。 

 文理融合を掲げる学環の「学びの軸」となるのは、各種データの分析から導かれる結果を用いて社会課題の解決を目指すDSだ。1年次は入門のほか、「確率・統計」や「プレゼンテーション実習」などを履修。2年次以降は、DSの「総合」と「半導体」の2コースに分かれ、より専門性を磨いていく。

 企業と連携した学びも特徴の一つ。半導体関連企業から講師を招き、製造工程に関する実験を実施する予定。また金融機関や行政などから開示された情報を分析し、研究する。城本啓介学環長は「学問的な学びだけでなく、活用先がどのようにデータを扱っているのかを知ってほしい」と話す。

 他の大学でも独自性を求めて、さまざまな動きが広がっている。九州大は23年6月、九州の核となる組織を目指し「価値創造型半導体人材育成センター」を開設。全学部生が受講できる半導体関連の科目を設け、TSMCや子会社JASMの社員の講義も実施している。長崎大は同年11月、「マイクロデバイス総合研究センター」をつくり、大学院生向けの専門科目を開講。宮崎大は25年4月、工学部に「半導体サイエンスプログラム」をつくる。

 今後大学間では、社会に即応できる人材輩出に向けた競争激化が見込まれる。熊本大では学環内に新たなコースの設置も含め、カリキュラムの充実も視野に入れていく。(上野史央里)

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