戦争で受けた父の心の傷、短歌に 天草市の石井さん 上等兵からブーツで制裁…靴音にもおびえる日々
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毎年ブーツが店頭に並ぶ冬になると、思い出すことがある。何にも反対しなかった父が、一度だけ首を横に振ったこと。天草市の石井礼子さん(74)は、その時のことを短歌に詠んだ。
ブーツ履くだけは許さざる父なりきラーゲルの靴音戦後も消えず
ラーゲルとは、石井さんの父、仁田長政さん(享年83)が1938年に日本統治下だった朝鮮・京城(現ソウル)で短期現役兵として訓練を受けていた建物を指しているという。「上等兵の靴音が近づいてくると皆ビクッとしていたそう。建物に響くブーツの音は、父にとって一番思い出したくないものだったのでしょう」と石井さんは話す。
きっかけは石井さんが20代前半の頃の、父への何げないひと言だった。「ブーツを履いてみたいな」。当時、若者の間ではブーツが流行していたという。日本が高度経済成長を遂げ、フォークソング「戦争を知らない子供たち」がヒットした時代。しかし、長政さんからは意外な答えが返ってきた。「それだけは、いかん」
長政さんは1918年、宮地岳村(現天草市)に生まれ、中学まで天草で過ごした。親戚を頼って朝鮮に渡り、38年に京城の師範学校を卒業した後、5カ月間の訓練を受けたのが陸軍歩兵第78連隊だった。
そこでの上等兵の暴力は熾烈[しれつ]を極めた。ある時は、食事に出された漬物に不満があって激怒し、隊員らの食事を蹴ってひっくり返した。隊員の1人に何か手ぬかりがあれば連帯責任を負わされ、全員が硬いブーツで顔などを蹴られた。制裁の象徴であるブーツを磨かされることが苦痛だった。

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熊本市出身。早回しの歌に乗せた形態模写やデフォルメの効いた顔まねでデビューして45年。声帯模写も身に付けてコンサートや座長公演、ドラマなど活躍の場は限りなく、「五木ロボ」といった唯一無二の芸を世に送り続ける“ものまね界のレジェンド”です。その芸の奥義と半生を「ものまね道」と題して語ります。