「三四郎」キーワードはストレイシープ…どう読み解く? <アイラヴ漱石先生朗読館=2022年10月2日放送>
#読むラジオおはようございます。本田みずえです。夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたい、そんな人たちに向けて書かれたガイドブック、アイラヴ漱石先生が、今年4月に発刊されました。夏目漱石は、第五高等学校の英語教師として、生まれ故郷以外の土地では最も長い4年3カ月を熊本で過ごしました。この番組では、そんな漱石先生の文学の面白さを、熊本の高校生の皆さんと探究していきます。今日は、真和高校3年生の福原美智莉さん、2年生の山口雄平さんと、漱石の長編小説、三四郎の魅力を探っていきましょう。解説は、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんです。この番組は、NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石八雲教育研究センターの協力でお送りします。
<朗読>「三四郎」
うとうととして眼(め)が覚(さ)めると、女は何時(いつ)の間(ま)にか、隣の爺(じい)さんと話を始めている。この爺さんは慥(たし)かに、前の前の駅から乗った田舎者(いなかもの)である。発車間際(まぎわ)に頓狂(とんきょう)な声を出して、駆け込んで来て、いきなり肌を脱いだと思ったら脊中(せなか)に御灸(おきゅう)の痕(あと)が一杯あったので、三四郎(さんしろう)の記憶に残っている。爺さんが汗を拭(ふ)いて、肌を入れて、女の隣に腰を懸けたまでよく注意して見ていた位である。
女とは京都からの相乗(あいのり)である。乗った時から三四郎の眼に着いた。第一色が黒い。三四郎は九州から山陽線に移って、段々京大阪へ近付いてくるうちに、女の色が次第に白くなるので何時の間にか故郷を遠のくような憐れを感じていた。それでこの女が車室に這入って来た時は、何となく異性の味方を得た心持がした。この女の色は実際九州色であった。
<本田>それでは、真和高校3年生の福原美智莉さん、2年生の山口雄平さんと、今日は、漱石の長編小説、三四郎の魅力を探っていきましょう。まず、作品の解説を、元高校の国語の先生でした西口由美子さんにお願いします。
<西口>最初に取り上げる作品は三四郎です。漱石が作家としてデビューしてから3年後、新聞社に入ってからは2年後にあたる、明治41年、1908年の9月1日から12月29日まで、117回にわたり、朝日新聞に掲載された連続小説です。熊本の第五高等学校、今の熊大から上京し、東京帝国大学、今の東大で学ぶことになった主人公、小川三四郎、23歳。彼は真面目で、うぶで、野暮で、真っさらな人物。愛情たっぷりの母親や幼なじみのお光さんという人たちが住む、安全で優しい過去の世界から出て、広田先生や同教の先輩・野々宮宗八の住むアカデミックな学問の世界へと足を踏み入れます。そしてまた、里見美禰子のような美しい女性の住む華やかな世界があることを知り、大都会東京で大いに刺激を受けます。小説三四郎は、「それから」「門」へと続く前期三部作の主人公の中では最も若く、高校生の皆さんに一番近い存在なのです。出会い、迷い、ときめき、悩む三四郎、この作品はいわゆる青春小説なのです。個性的な登場人物、その人たちの口を借りて、41歳の漱石は当時の日本に対する批判もします。キーワードは、迷子、ストレイシープ、迷える羊です。さて皆さんはこの作品をどう読みますか?
<本田>ということで、今日は二人の高校生に来ていただきました。それでは西口さん、これからは作品についてお二人と存分に語り合ってください。
<西口>はい、ではよろしくお願いします。
<高校生>よろしくお願いします。
<西口>いくつか質問させていただきます。私はですね、高校生の時に三四郎を読んで、ちっともわからないし面白くなかったのですが、お二人は三四郎に対してどんな気持ちを持っていますか? 作品についてでも本人についてでもいいので、簡単に話してみてください。まず福原さんお願いします。
<福原>そうですね、夏目漱石さんの書く文章はとても難しくて、理解するのとかも結構大変だったのですけれども、三四郎を読んでですね、その三四郎が熊本から東京に出て、新しい人や美禰子との出会いから、いろんな価値観を学んでいくと思うんですけど、そういうところで時に考え込んだり、時に悩んだりするというところが、やっぱり人は人に影響を受けるんだなということを改めて感じて、私もこれから大学で学んだりとか、今はよくわからないんですけど、恋愛について経験していくと思うので、その価値観を自分の中に取り入れて、自分なりに考えていけたらいいなと読んで思いました。
<西口>素晴らしい。私の高校時代と全く違う、今ぐらいになって面白さがわかってきた、この差は何だろうと思います。では山口くんお願いします。
<山口>作品に対しては三四郎の美禰子に対する一歩を踏み出せないとか、美禰子の気持ちを素直に受け取れない、ネガティブな方向に受け取ってしまう、その姿勢は男子としてはとてもわかるけど、自分の中でもよく友達とか女友達とかと関わる時に優しくしてくれたりとか、そういう時に好きなのかなと思う反面、みんなと一緒なのかなと自分の脳内で格闘したりとか、やるせなさ、一歩を踏み出すことへの怖さはとてもわかるけど、やっぱり三四郎は冒頭の通り、度胸のない男だったんだなって。
<西口>そうですね。本当に三四郎の立場になってちゃんと読んでいるんだなというので、私は今の話を聞いて感動しました。とにかく三四郎は好きなのか、好かれているのかさえもわからないような、何とも言えないところがありますが、しかし愛すべき人物だなというのもこの頃本当によくわかります。さて、では三四郎以外にも魅力的な人がたくさん登場しますよね。ちょっと関心がある、興味があるという人物についても話してみてくださいますか。今度は山口くんから言ってみましょうか。
<山口>僕は一番広田先生が好きで、学者って勝手に頭の固いイメージを持っていて、まさに時代にとらわれた女性の価値観とかにとらわれて、それを実際に言動として示してしまう。その男としての堅さにとても共感というか、めちゃくちゃ印象に残りました。
<西口>素晴らしい。山口くんの登場人物に自分を寄せて感じるというその心が、作品より私は今感動しているような感じなんですけど。では福原さんにもお願いしましょうか。
<福原>私は三四郎が大学で出会う友人の佐々木与次郎という人物にとても面白いなと思って、与次郎は広田先生のことをとても信頼していて、高等学校の先生ではもったいないからと言って、大学の先生になれるように行動していくんですけど、そこまで広田先生に対する信頼だとか、忠誠心みたいなのがすごいなと思って、そこまで自分の行動に変えられるのがすごいなと思いました。
<西口>やることははちゃめちゃなんですけど、心はまっすぐという痛快な人という感じで描かれていますよね。話を展開させるための道化師みたいな存在かなと思って、私も与次郎にはちょっと惹かれるんですが。それからこの中で先ほどもちょっと話しましたが、ストレーシープという言葉がそこそこに出てきて大事なんだけど、かなり難しいと思うんですね。今のそれぞれの立場でこのストレーシープをどのように読み取っていますか? 福原さんお願いします。
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