米非常事態宣言 世界の分断深まるばかりだ

2月17日 09:34

 議会の権限を無視して、国境の壁建設に突き進む「禁じ手」だ。トランプ米大統領は、メキシコ国境で「核心的な国家安全保障を脅かす安全と人道の危機が起きている」として国家非常事態を宣言する文書に署名した。

 壁建設に反対する民主党が下院多数派を占める議会を通さず、計約81億ドル(約8900億円)の捻出を目指す。来年に迫る大統領選に向け「強い大統領」をアピールするためだ。民主党は法廷闘争に出る構えで、行方は見通せない。

 国境の「壁」の建設はトランプ氏の目玉公約だ。しかし昨年の中間選挙で、民主党が下院多数派を占める「ねじれ議会」となっており、トランプ氏の政策推進は思い通りにはならない状況だ。「必ず完成させる」と繰り返し強調してきた壁も、建設費を盛り込んだ予算が成立せず政府機関の一部が35日間にわたって閉鎖され、世論の批判が高まった。

 共和党と民主党が最終的に合意した歳出法案は、国境対策のために壁ではなく全長約90キロのフェンスの建設費として13億7500万ドル(約1520億円)を計上するものだった。全長約380キロの壁建設費としてトランプ氏が求めていた57億ドルを大幅に下回り、支持層の保守強硬派からは強い反発の声が出ていた。

 トランプ氏は宣言と併せ、議会を通過した超党派の予算案に署名した。トランプ氏の狙いは、政府機関の再閉鎖を回避しながら、悲願の公約実現に向けて非常事態宣言で一気に建設費用を確保するものだ。政権内には慎重論もある中、強硬策に踏み切ったのは、ここで妥協すれば熱狂的な支持層が離れることへの恐れもあるのだろう。しかし議会を無視した非常事態宣言は、民主主義のルールを踏みにじる横暴な行動と言わざるを得ない。

 米国での非常事態宣言はこれまで、2001年の米中枢同時テロや09年の新型インフルエンザ流行などでも出されている。しかし、そもそも現在の国境の状況が「非常事態」なのかどうか、賛否の割れる特定の政策実現のために出すのは憲法違反との指摘もある。トランプ氏の判断はあまりにも拙速で強引だと言えよう。

 トランプ氏は、一般教書演説で「共和、民主両党の党派対立を超え『一つの国』を目指す」として「超党派結束」を訴えていた。それを投げ出すような非常事態宣言で、民主党との対立が激化することは避けられない。

 民主党は非常事態宣言について「大統領権限の乱用だ」「憲法違反だ」などと反発しており、法廷闘争に発展する見通しだ。これに対しトランプ氏は、下級審で負けても、保守派判事が多数を占める最高裁で「公正な結果が出る」と自信を見せている。

 トランプ氏が掲げる排外主義は、国際的な影響力も大きく、世界の分断をこれまで以上に深刻にしかねない。自由を求めた移民とともに繁栄し、多様性を重んじてきた「建国の理念」が泣こう。