サマータイム 国民生活への影響考慮を

8月11日 09:08

 安倍晋三首相が、サマータイム(夏時間)制度の導入の可否を検討するよう自民党に指示した。2020年東京五輪・パラリンピックの暑さ対策が狙いという。

 この夏の記録的な猛暑を考えれば、暑さ対策が必要なことは理解できる。ただ、五輪まで2年を切った段階で検討するのは唐突感が否めない。

 サマータイムは、夏季の時間を標準時より1~2時間早める制度。一年の中で長い日照時間を有効に活用するため、欧米を中心に広く導入されている。

 サマータイムの検討は、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の要請に応えたもので、マラソンや競歩といった屋外競技の選手の体調に配慮する狙いがある。現在より時計の針を2時間早めることにより、例えば男女マラソンでは午前7時に設定しているスタート時間を、実質的に同5時へ前倒しすることが可能になり、選手が涼しい時間に競技できるようになる、とする。

 五輪対策以外でも、朝の涼しい時間帯に仕事を始め、終業を早めれば、日没まで余暇の時間が増えて消費拡大が期待できる。クーラーや照明などに使う電力も節約でき、省エネ効果も見込める。また、明るい時間が長いため、交通事故や犯罪が減る可能性もあるという。

 しかし、導入には国民生活や経済活動への影響など数多くの難点が指摘されている。

 鉄道やバス、航空機はダイヤ変更が必要になり、企業や役所が使うコンピューターのシステム改修も欠かせない。いずれも膨大な作業と費用が想定される。また、改修作業でコンピューターシステムに不具合が生じれば、社会的に混乱を招く恐れもある。

 サマータイムによって始業を早めても残業は減らず、かえって長時間労働が助長されるとの見方もある。日本列島は北海道から九州・沖縄まで南北に長いため、地域によって影響も変わってくる。特に、日の出が遅い九州では、夏でも暗いうちに起きることが増える。睡眠不足など健康への悪影響も懸念される。

 サマータイムは、日本でも戦後、連合国軍の占領下で導入されたことがある。だが、労働時間が長くなったなど国民の不評を買い、わずか4年で廃止された。その後も度々導入の議論が巻き起こったが、立ち消えになった経緯がある。

 導入国は、高緯度で夏と冬の日照時間の差が大きい欧米に多い。日本など中、低緯度の国では、そもそも欧米ほどの利点はないとされる。その欧米にも反対論があり、欧州連合(EU)は廃止の是非を検討している。

 さまざまな弊害が生じる可能性を抱えてまで、サマータイムを導入するメリットがあるのだろうか。政府、与党内にも慎重論が根強くあるという。五輪成功という大義名分だけで安易に飛び付いてはなるまい。国民生活への影響を十分考慮し、導入には慎重な検討が必要だ。