労働時間規制緩和 「働く側の視点」が原点だ

5月13日 10:21

 労働時間の規制緩和が長時間労働につながりかねない実態が、県内でも明らかになったと言える。県内の企業や事業所で2013~17年度(17年度は2月末まで)の過去5年間に、裁量労働制をめぐって労働基準監督署が是正勧告や指導をした事例が14件あったことが、熊本労働局への情報開示請求で分かった。うち10件は労働時間に関する指摘が占めた。

 裁量労働制は労働時間の配分を労働者に任せ、あらかじめ決めた時間を働いたとみなす制度で、みなし労働時間を超えても残業代は発生しない。採用には労使間で結ぶ協定や決議を労基署に届ける必要があり、県内では16年に118件の届け出があったという。

 開示資料によると、是正勧告・指導のうち、労使で定めたみなし労働時間より実際の労働時間が長い事例が6件と最も多かった。中には、1カ月間の残業時間の合計がみなし時間に盛り込んだ残業分の2倍に及び、指導された事業所もあった。労基署側はそれぞれの事業所に対し、労働時間の実態把握や、みなし時間と実際の労働時間との隔たりを埋める措置などとともに、労働者の健康確保を求めている。

 労働時間以外の是正勧告・指導では、裁量労働制の対象として適切ではない業務・部門への適用、労使協定の不備などがあった。

 今回浮かび上がったのは、使用者側が実際の労働時間を十分に把握していないという実態だ。複数回の指導を受けても改善できていない事業所もあった。表面化した14件は氷山の一角とみられ、労働者の健康を守るためには極めて慎重な制度運用が求められる。

 長時間労働が最悪の状況を引き起こした一例として、野村不動産のケースが挙げられる。東京労働局は17年12月、裁量労働制を対象外の社員に違法適用していたとして同社を特別指導。その後、50代の男性社員が自殺し、長時間労働による過労が原因として労災認定されていたことが分かった。

 裁量労働制の適用拡大をめぐっては、不適切なデータが相次ぎ表面化したことから、今国会で審議中の「働き方改革関連法案」からは削除された。しかし、裁量労働制の拡大を目指す政府の方針は変わっていない。法案審議では、高収入の一部専門職を労働時間の規制対象から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」創設が焦点となっている。

 高プロ創設は経済界が強く求めてきた経緯があるが、政府の説明不足などから、企業側には慎重姿勢に傾く動きも見え始めている。野党や識者からは、同制度に対し「スーパー裁量労働制だ」との批判も出ており、より慎重な審議が求められる。

 働き方改革関連法案では、残業時間の上限規制などでも政府案と野党側の主張の隔たりは大きい。こうした審議の原点にあるべきなのは、長時間労働をいかに是正して、命と健康をどう守るかという「働く側の視点」だろう。拙速な審議は避けるべきだ。