放送制度改革 偏重番組が台頭しかねない

3月31日 09:25

 安倍政権が検討している放送制度改革の方針案が判明した。NHKを除き、政治的公平を求める放送法4条など番組内容に関する規制を撤廃し、放送とインターネットをはじめとする通信を一本化。高額な放送設備を持たなくても新規参入できるようにして自由な番組流通を可能にするという。

 テレビでしか見られなかった番組がネットで視聴できる流れが定着し、確かにテレビとネットの垣根は低くなっている。しかし、放送規制を全廃すれば、党派色が強く偏った番組が台頭しかねない。拙速な結論は避けるべきだ。

 4条は(1)公序良俗を害しない(2)政治的に公平である(3)報道は事実を曲げない(4)意見が対立する問題は多角的に論点を明らかにする、ことを放送局に求め、番組制作の指針、倫理規範となってきた。その一方で、政権に批判的な放送に対し、政治家や官僚が圧力をかける根拠としてもしばしば使われてきた。

 4条違反を理由とする行政処分は、表現の自由を保障した憲法に違反するとの学説が一般的だ。総務省(旧郵政省)も長く、「処分は事実上不可能」との立場だった。

 しかし、1980年代以降、悪質なケースは処分できると解釈を変更。実際に処分が出た例はないものの、安倍政権になってからは、自民党がテレビ局幹部を呼び付け、総務相が電波停止を命じる可能性に言及するなど、放送への圧力が強まっている。

 安倍晋三首相は昨年の衆院選の直前、ネット動画配信サービスの「AbemaTV」に出演、放送法に縛られずに持論を展開できるネット世界を体験した。首相が、そうした経験を基に、権力側が都合良く解釈できる4条の規定を撤廃してまで放送制度改革に突き進もうとすることに、放送関係者からは「政府の意向を代弁する放送局をつくりたいのではないか」との指摘も出ている。

 放送の公平原則を1987年に廃止した米国では、テレビやラジオが党派色を強め、社会の分断を助長。トランプ大統領誕生の一因になったともされる。

 日本でも放送の内容規制を全廃すれば、時の政権に有利な番組やフェイク(偽)ニュース、差別的なヘイトスピーチ(憎悪表現)などが出回る懸念がある。また、コストのかかる大規模災害報道や障害者向けの番組の提供が減少する可能性もある。

 4条廃止と引き換えに、政府から独立した行政委員会を新設し、放送免許の権限を総務相から移すのではないかとの見方もある。ただ、「安倍1強」体制下では委員の選任などを通じて影響力の行使も可能となろう。

 方針案は、政府の規制改革推進会議などが具体策を詰め、5月ごろにまとめる答申に反映される見込みという。既存の放送局からは「放送の公共的役割が考慮されていない」「経営基盤の弱い地方ローカル局はどうなるのか」といった批判や疑問の声が上がる。国民的議論を深める必要がある。