コロナワクチン開発 安全性を見極めるべきだ

9月16日 07:11

 新型コロナウイルス収束の鍵を握るワクチンについて、政府は来年前半までに国民全員分を確保し、自己負担無しで接種できる体制づくりを目指している。

 長引くコロナ禍で疲弊した社会経済活動を建て直すためにもワクチンの実用化は急ぐ必要があるが、来夏の東京五輪・パラリンピックの開催につなげたいという思惑が強くにじむスケジュールありきの実用化は危険である。ワクチンの有効性と安全性を慎重に見極めた上で進めるべきだ。

 政府はこれまで、米製薬大手ファイザーと英アストラゼネカが開発中のワクチンをそれぞれ1億2千万回分供給を受けることで基本合意し、米モデルナとも約4千万回分以上の供給を受けられるよう交渉を進めている。国内でも2020年度補正予算で計600億円を計上し、国立感染症研究所などによる開発を後押しする方針だ。

 ただ、日本が米英2社から確保するワクチンは実用化の実績がない新しい技術を使っている。政府の分科会も重い副作用や十分な効果が得られない可能性を認め、「理想的なワクチンが開発される保証はない」として、過度な期待や過信を戒めている。

 実際に、アストラゼネカがオックスフォード大と共同で開発中のワクチンの臨床試験(治験)で、重大な副作用が疑われる深刻な症状が出たため、全世界での治験を一時中断した。

 12日に安全性が確認されたとして治験は再開されたが、「これ以上の医療情報は開示できない」として、詳細な情報は明らかにしていない。メーカーに対しては副作用に関する情報の開示を徹底して求めるべきだ。

 政府はワクチンの早期大量確保に向け、接種後に健康被害が起きた場合に製薬会社の損害賠償金や訴訟費用を肩代わりする法改正も検討している。海外メーカーから求められたためだが、健康被害の責任の所在などが曖昧になりかねず、慎重な運用を求めたい。

 通常、ワクチンは3段階の治験を経て効果と安全性を確認するため、承認までには数年かかるとされている。

 しかし、ワクチンの開発と実用化に各国がしのぎを削る中、トランプ米大統領は11月の大統領選前の実用化を促す発言を繰り返し、ロシアは8月、第3段階を省いた第2段階でのワクチン承認をいち早く発表した。中国も、開発中のワクチンの途上国への優先提供で影響力拡大を図る「ワクチン外交」を仕掛けている。科学的知見より政治的思惑が優先される事態が懸念される。

 自国第一主義に走る先進国のワクチンの争奪戦も問題だ。世界保健機関(WHO)は、各国でワクチン開発に共同出資し、参加国は人口の少なくとも20%分を確保できるようにする国際的な枠組みへの参加を呼びかけている。危機の時こそ冷静な対応が必要だ。既に参加表明している日本政府も、国際的な協力体制を広げる動きを積極的に支援してほしい。