原爆の日 日本こそ核廃絶リードを

8月6日 07:44

 広島は6日、長崎は9日に「原爆の日」を迎える。巨大なきのこ雲が二つの街を覆って75年。今なお核廃絶に向けた足取りは遅々として進んでいない。それどころか「自国第一」主義がはびこる中、世界の動きは廃絶とは逆行し、その行方に暗雲が垂れ込めている。

 日本は唯一の被爆国として、そんな状況でこそ率先して核廃絶を進めるべき立場だが、果たしてそれだけの存在感を示せているだろうか。

 広島市できょう開かれる平和記念式典では、松井一実市長が平和宣言で、3年前に国連で採択されながら、いまだ発効していない核兵器禁止条約について日本政府に締約国になるよう求める。田上富久長崎市長も同市の式典であらためて同様の要求をする予定だ。

 日本は米国の「核の傘」の下で安全保障を図っており、この条約には核保有国と足並みをそろえて批准していない。こうした姿勢に対しては、被爆者らから「被爆国が動かないのは残念」「米国におもねっている」といった強い批判の声が上がっている。

 このところの米国とロシアという核保有大国の姿勢にも危機感が強まっている。両国間の中距離核戦力(INF)廃棄条約は失効。唯一残る核軍縮条約で、来年2月に期限切れとなる新戦略兵器削減条約(新START)の延長交渉も難航している。さらに両国は新型核の導入さえ進めており、中国も含め核軍拡がエスカレートする様相を呈している。

 「核兵器が75年使われなかったのは幸運でしかない。次の75年が安全とは限らない」。原爆投下に関する研究で知られる米国の歴史学者ガー・アルペロビッツ氏の言葉をかみしめる必要がある。世界が連帯して「核なき世界」実現の道を探らなければならない。もちろん日本が、それをリードする責務を果たすべきだ。

 国が交付する被爆者健康手帳を持つ人は今年3月末時点で13万6682人。平均年齢は83歳を超えて高齢化が進み、近年は毎年9千を超す人々が亡くなっている。「被爆者なき時代」が迫る中、被爆の実相に耳を傾けられる機会が減ることへの対応も急務だ。

 元広島原爆資料館長で被爆者の原田浩さん(81)は「凄惨[せいさん]な記憶を風化させないため、切迫感を持って向き合わなければ継承できなくなる」と訴える。今年は特に新型コロナウイルスの感染拡大という逆風が吹き、被爆者らが行う体験講話などが自粛を迫られた。コロナ禍を機に、インターネットを通じた証言発信など継承手段の多様化を一層進めたい。

 一方で一筋の光明も差す。語り部になったり、デジタル技術を介して被爆地の思いを発信したりする若い世代が存在することだ。ただ「周囲の理解を得られていない」と感じる人も少なくないという。社会が継承の必要性を認知し、若者が活動しやすい環境づくりに取り組む必要がある。被爆の記憶を世界に広く発信することも日本が果たすべき役割だ。