70歳就業法 働く「リスク」丸投げでは

4月5日 07:12

 高齢になっても働きたいと願う人に、70歳まで就業機会を確保するよう企業に努力義務を課す関連法の一括改正が今国会で成立した。高齢者の就業や副業・兼業といった多様な働き方を促す改正高齢者雇用安定法など6法で、来年4月から適用される。

 「人生100年時代」「1億総活躍社会」を掲げる政府にとっては、急激な少子高齢化と、並行して進む就業人口の減少に対応し、社会保障制度を支える働き手を世代を超えて増やす狙いがある。

 現行の65歳までの雇用継続は2025年度に完全義務化されるが、その先も働きたいと希望したり、あるいは働かざるを得ないと考える高齢者にとっても、就業機会が増える法改正は一定の評価ができよう。

 半面、70歳までの「多様な働き方」という名目で、労働者よりむしろ企業側に、従来の雇用形態を超えた業務委託や転職などの選択肢を与えた点は疑問が残る。政府は70歳までの就業を将来は企業の義務とする方針だが、高齢者が労働者保護の法の網からこぼれかねない危うさは容認できない。

 65歳までを対象にした今の雇用安定制度は、企業側に(1)定年廃止(2)定年延長(3)継続雇用制度-のいずれかの方法で、希望する人の雇用を義務付けるものだ。加えて新制度は、(4)起業やフリーランスを希望する人への業務委託(請負)(5)有償ボランティアなど自社が関わる社会貢献事業に従事-も新設して、企業に70歳までの就業を促す。継続雇用制度では他社への転職も認める。

 このうち最も懸念されるのが、フリーランスなど請負契約への移行だ。労使の合意が前提になるとはいえ、従来の雇用関係がなくなり、働き方は「雇用」から「就業」になる。3月17日の衆院厚生労働委員会で答弁に立った加藤勝信厚労相も、フリーランスなどの業務請負は「雇用に比べ、労働関係法令の保護が適用されない」と認めた。

 加藤氏はその上で、業務内容や報酬など「労使双方で十分に納得した措置が講じられることが望ましい」と強調した。しかし、請負では最低賃金が適用されず、一部を除き労災保険にも入れない。現状では、弱い立場の高齢労働者が不利益を被る可能性が高い。

 高齢者に限らずフリーランスの働き手を巡っては、新型コロナウイルス対応でも、休業補償の仕組みが整っていないもろさが明らかになった。2012年12月以来続く安倍晋三政権はこれまで各種の制度改革を打ち出したが、一貫して気になるのは、国民一人一人に手を差し伸べるべきセーフティーネットの乏しさである。

 65歳を超えた人たちに多様な働き方が必要だとすれば、個々の体力や健康、何より家計に違いがあるからだ。さまざまな事情を抱える高齢者に、働くことの「リスク」まで丸投げするような制度では困る。今からでも労働環境を十分に検証した上で、高齢者保護へ万全の対応を講じてもらいたい。