憲法裁判記録の廃棄 明確な保存ルール確立を

8月7日 09:22

 憲法解釈が争われた戦後の重要な民事裁判の記録多数を、全国の裁判所が廃棄していたことが共同通信の調査で分かった。

 判決文などの結論文書はおおむね残されていたが、審理過程の文書が失われたことで、歴史的な憲法裁判の検証が不可能になった。保存に関する法制が未整備なままの民事裁判記録についても、行政文書と同様に「国民共有の知的財産」と位置付け、明確な保存ルールを確立すべきだ。

 調査によると、代表的な憲法判例集に掲載された137件のうち、廃棄は118件(86%)、保存は18件(13%)、不明1件だった。廃棄されたものには、自衛隊に一審札幌地裁で違憲判決が出た長沼ナイキ訴訟や、沖縄の米軍用地の強制使用を巡る代理署名訴訟などが含まれていたという。

 裁判記録は、行政文書と違い公文書管理法の対象外。刑事裁判記録の保存は刑事確定訴訟記録法で定められているが、民事については、最高裁の内部ルールである事件記録等保存規定による。

 通常の民事裁判記録は、一審裁判所で5年保存(判決文は50年)された後に廃棄される。しかし、同規定と通達では「重要な憲法判断が示された」などの条件を例示し、歴史的価値がある裁判記録については特別保存として事実上永久保存することを義務付けている。

 今回の調査で特別保存となっていたのは、熊本地裁が国の隔離政策を違憲と判断し確定したハンセン病国家賠償請求訴訟などわずか6件。代表的な判例集に掲載された裁判にもかかわらず、その8割以上が捨てられていたことは、規定に反する恣意[しい]的な運用がなされていたことを強く疑わせる。

 判明した多数の廃棄が適切か否かについて、最高裁は「(廃棄は)各裁判所の個別の判断」と回答を避けているが、当事者意識を感じさせない無責任な姿勢と言わざるを得ない。

 判決文は残されていても、その結論がどのように導かれたのかを検証するためには、法廷でどのような主張がなされ、それがどれだけくみ取られたのかが分かる、審理過程の記録が不可欠である。

 裁判の公開同様、記録も公開が原則だ。米国では多くが永久保存され、データベース化など閲覧環境も整備されている。それに比べ日本の司法界は閉鎖的で、裁判記録を国民共有の財産と捉える認識が希薄だったのではないか。

 検察庁が保存している刑事裁判記録については昨年、法務省が公開を前提に一部を国立公文書館に移管させる方針を打ち出した。

 民事については既に、判決文や特別保存記録の国立公文書館への移管はなされているが、その特別保存が機能していない運用実態が判明したことで、最高裁は廃棄をいったん凍結した上で、ルールの見直しに着手すべきだ。

 立法化も視野に、外部の識者も入れ特別保存を積極的に審査する仕組みや、保存だけでなく公開なども含めた総合的な管理ルールの検討を求めたい。