老後の資金不足 今こそ年金議論深めたい

6月19日 09:23

 公的年金だけでは老後の資金が2千万円不足するとした金融庁の報告書が、所管する麻生太郎金融担当相の受け取り拒否で事実上の撤回となった。

 年金制度への不信が高まり、参院選への逆風となることを懸念した政府、与党の判断のようだ。

 確かに報告書の説明不足が国民の不安をあおった面はあろう。ただ、老後に経済的な懸念を抱いている人は多い。2千万円の多寡はさておき、年金の限界を直視し備えを求めた問題提起を、「なかったこと」にする政府の姿勢には強い疑念を覚える。

 政府はこれを機に、公的年金の実態を国民に分かりやすく説明すべきだ。今こそ高齢社会に対応した年金制度の在り方、社会保障制度の将来像について議論を深める必要がある。

 問題となったのは、無職の高齢夫婦は年金だけでは月に5万円の赤字となり、95歳まで生きると2千万円の備えが必要になるとした試算だ。別に3千万円の数字もあったという。政府が敏感に反応したのは年金を「100年安心」と説明してきたからだ。

 麻生氏は受け取らない理由として「世間に不安や誤解を与えた。今までの政府の政策スタンスと違う」と述べた。ただ、試算の基になった収支は総務省の家計調査でオープンになっており、厚生労働省なども使ってきた。麻生氏の強弁には無理があろう。

 一方、「100年安心」について「うそだった」と追及された安倍晋三首相もこれをきっぱりと否定。「(2004年導入の)マクロ経済スライドで100年安心の制度となった」「現役、将来世代も含め、皆さんに安心してもらえる」と胸を張った。

 ただ、マクロ経済スライドは、年金改定率を賃金や物価の伸びより抑える仕組みでもある。少子高齢化で保険料を払う現役世代が減る一方、年金を受け取る高齢者は増え続けるため、年金財政の持続可能性を高めようと導入された。

 制度維持を目指す給付抑制は将来の家計を直撃する。それをもって「100年安心」を強調するのは無責任だろう。

 共同通信社が行った世論調査では、報告書を麻生氏が受け取らなかったことについて「問題」とした回答は71・3%で、公的年金制度を「信頼できない」とした人も63・8%に上った。老後の生活に経済的な不安が「ある」は74・3%で、「ない」の22・7%を大きく上回った。

 今年は、経済状況や人口、雇用情勢を踏まえて年金財政の健全性を5年に1度チェックする財政検証の年だ。通常なら既に公表されていていい時期だが、今回は参院選後との観測もある。これも争点化を避けてのことなら国民無視もはなはだしい。一刻も早く詳細な情報を提示すべきだ。

 年金財政の健全性は、将来の負担と給付は-。年金で足りなければ蓄えや仕事をどう組み合わせ、老後を生きるか。こうした議論こそが参院選の争点のはずだ。