11月8日付

11月8日 09:28

 彼は読書をしない。物事の詳細を知ろうとする忍耐力を全く持っていないし、物事の正確さや真実を尊重することもない。米国の歴史家ジョン・ダワー氏の著書『アメリカ 暴力の世紀』(岩波書店)から引いた。「彼」とはトランプ米大統領のことだ▼ダワー氏は、多くの米国人と世界の大部分がトランプ氏を不安の目で見ていると指摘する。大統領就任から2年近くの間、物議を醸し続けるトランプ氏の言動は、その不安を一段とかき立てているようだ▼振り返れば3年前の夏、大統領選の共和党候補指名争いで首位を独走していたトランプ氏を、小欄は“台風の目”に例えた。当時、内心ではまさか当選はあるまいと、高をくくっていた気がする。不明を恥じるばかりである▼そのトランプ氏への初の審判となる米中間選挙が投開票された。事前の予想通り、上院は与党共和党が多数派を維持したものの、下院は野党民主党が多数派を奪還。ねじれ議会となり、政局は緊迫しそうだ▼だが、トランプ氏は意気軒高のよう。中米からの移民集団を「われわれの国への侵略」と批判したように、「怒り」や「憎悪」、「不安」といった人間の原初的な感情に訴えかける政治スタイルは変わるまい▼ダワー氏は『暴力の世紀』の中で米国を、巨大な軍事力と過度の傲慢[ごうまん]さを持つ一方で、深刻な被害妄想や失敗感にさいなまれている矛盾に満ちた国と表現する。まるでトランプ氏そのもののようだ。そんな国とどう付き合っていくか、思案のしどころである。