8月10日付

8月10日 09:02

 数人が船で海釣りに出掛け、夢中になっているうちに日が落ちて暗闇となってしまった。明かりをともして方向を探るが見当がつかない。あいにく月も出ていない▼一人が「明かりを消せ」と言う。しばらくすると闇に目が慣れ、遠くに浜の明かりがぼーっと浮かんだ。心理学者の故河合隼雄さんがこんな話を紹介し、明かりを消した方が本質がよく見えることがあると書いていた▼目先を照らす明かりを消し、沖縄の未来一点に目を凝らした人生ではなかったか。民意を背に米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に一貫して反対してきた翁長雄志[おながたけし]知事が死去した。67歳▼元々は保守系の政治家だった。しかし、普天間の「最低でも県外」を掲げた民主党政権とその後の迷走を経て知事選で圧勝。「沖縄が自ら基地を提供したことはない」「沖縄は自己決定権や人権をないがしろにされている」と語り、保守、革新を超えた「オール沖縄」をリードした▼国と強硬に対決する姿が印象に残るが、それは国が話し合いを拒んだからだ。日米同盟、アジアの脅威という目下の理由ばかり強調し、沖縄の魂と向き合わず、辺野古移設が「唯一の解決策」と繰り返した国にこそ混迷の責任がある▼4月に膵[すい]がんが見つかり、手術。命を削る一日一日を重ねた。「沖縄に基地はこれ以上いらない」。本土に問う中で見詰めていたのは、アジアと対峙[たいじ]するのではなく、アジアと日本をつなぐ沖縄だったのだろう。明かりを消し、その思いにしっかりと目を凝らしたい。