9月14日付

9月14日 09:18

 自分ではもう忘れてしまったが、人間で言えばかれこれ700年も生きてきたらしい。ずっとここに立っている私の幹回りにはしめ縄が飾られ、ご神木の大クスノキと呼ばれている。熊本城の南側、今では花畑公園と称されているが、遠い昔ここは代継宮[よつぎぐう]というお社だった▼400年前、加藤清正という武将が天守閣を築いたとき、高みから神社を見下ろすわけにはいかぬと、お社を別の場所に移した。後に草花を植えたことから、付近は花畑屋敷と呼ばれるようになった▼この公園のすぐ南の方、今は「桜町」という一帯にも江戸期にはたくさんの武家屋敷が並んでいた。それが明治の西南戦争ですっかり焼け、跡は陸軍の練兵場に。再開発でようやく専売局の煙草[たばこ]工場が立地したが、戦争で再び焼け野原になり、戦後は県庁、熊本交通センターと百貨店に変遷した▼さて、その桜町から百貨店が消えてしばらく寂れていたが、このところやけに騒がしい。いつの間にか見上げるようなビルが立ち上がり、きょう一部がオープンするという▼「天守閣が近くに見えるね」。一足先にビルに上ってみた人間たちが、口々にその眺めを褒めそやしてそぞろ歩いて行く。声が弾んでいるのは、久しぶりに活気とにぎわいが戻ったからだろう▼700年の間には幾度も大地震や戦火に見舞われてきた。この前の地震も相当ひどかったが、このビルのにぎわいは震災を吹き飛ばすようではないか。清正というあの武将がもし生きていたら、さぞかし喜んだことだろう。