コワーキング施設運営、起業支援も?「人と人を繋ぎ、新しい価値を創る」。銀行員から転職した社員が語る熊本日日新聞社の強みとは
熊本日日新聞社(熊本市、河村邦比児社長)は1942年の創刊以来、熊本の情報を満載した新聞を80年以上にわたって作り続けてきました。近年は電子版を始めとするネット戦略も展開。新聞を取っていなくても、スマートフォンで熊日のニュースを見る方は多いのではないでしょうか。
新聞社には報道記者のほかにも、営業や販売店の経営支援、印刷・情報技術者など様々な職種があります。中でも「ビジネス職」は、広告枠の企画やイベントの運営を通じて、会社を支える収益を上げる仕事です。地元新聞社として地域を応援したり、課題を解決できるような事業を目指しています。
そんな熊日のビジネス部門で、近年「新聞社らしくない」変化が起きているのをご存じでしょうか。かつては紙面広告営業や新聞販売店の支援が中心でしたが、施設運営や行政の事業受託といった新規事業が立ち上がり、活動の場が拡大しています。
その一つが、熊本市中心部に誕生したコワーキングスペース「びぷれすイノベーションスタジオ(Bスタ)」。2020年に銀行員からの転職で入社した甲岡昌吾さんは、イノベーション事業室(現・新規ビジネス推進部)に在籍していた2021年~2023年に運営に携わりました。施設の管理にとどまらず、そこに集う人たちと新しいビジネスに挑戦した2年間を振り返ってもらいました。
人と情報の交差点「びぷれすイノベーションスタジオ」
―Bスタは2019年、熊日の新規事業としてスタートしました。運営業務ではどんなことをするんですか?
甲岡 Bスタには、起業家や個人事業主、ベンチャー企業や自治体といった、個人・法人の会員がいます。熊本の成長を願う会員や団体がここに集まり、地域の活性化や課題解決に繋がるイノベーションを起こしていく―。そんな思いで始まった事業です。
私たち熊日のスタッフは施設の環境づくりのほか、会員の交流会を企画したり、会員が主催するセミナーを手伝ったりしています。たくさんの社外の人と情報交換し、日々刺激をもらいながら、新しいビジネスの種を探すのも役目でした。
―自治体の委託業務にも取り組んだと聞きました。
甲岡 主に熊本県や熊本市が行う企画コンペに参加し、複数の事業を受け持っていました。例えば、熊本市が熊本駅前に開設したビジネス支援施設「XOSS POINT.(クロスポイント)」は、他社との企業連合で指定管理を担っています。起業を考えている人のお手伝いをする場所で、Bスタで培った人脈やノウハウを活かしてセミナーを企画したり、相談に応じたりしていました。
2023年には、起業を目指す若い人材を発掘・育成する経済産業省の補助事業「AKATSUKIプロジェクト」にも参画。AIを活用したアプリ開発など、独自のアイデアを持った若者たちに対し、専門家のレクチャーや資金提供者とのマッチングの機会を提供しました。
―新聞社がこうした取り組みをするのは意外かもしれません。
甲岡 Bスタで社外の方と接して思うのは、熊日という会社が持つ知名度と信頼性は大きな武器だということです。名刺を渡すとほとんどの方が「ああ、熊日さんね」と言ってくださいます。そんな会社が提供する場だからこそ人と情報が集まるんだと分かりました。新聞業界が岐路に立っている今、「経営資源」ともいえるその繋がりを活かさない手はありません。
―会社として全く新しいことを始めるのには、大きなエネルギーとノウハウが必要です。
甲岡 私個人に起業の経験はありませんし、熊日社員にもそんな人はほとんどいません。しかし私たちだけではできないことも、Bスタの会員や、私たちが繋がっている人たちと協業することで幅が広がります。新聞社は、こうして人と人を結び、新しい価値を生み出す可能性を持っているんだと思います。
私もイベントや施設に集う人と積極的に名刺交換したり、何かの縁で知り合った全国・世界中の人とオンラインで話したりして、日々次のビジネスの種を探しています。
銀行員からの転身。営業の基本は同じ
―甲岡さんは他県の地方銀行からの転職で入社。きっかけを教えてください。
甲岡 私は愛媛県の出身です。熊本は妻の出身地でした。ある日、熊日の「中途採用者募集」の社告記事の写真が、妻の両親から送られてきたんです。当時「いつか熊本に行くかも」とぼんやり思っていたんですが、そのきっかけを与えてもらいました。
とはいえ、新聞社の仕事というと報道や新聞販売のイメージが強いですよね。調べるうちに様々なフィールドがあると知り、「おもしろそう!」と思い履歴書を送りました。
―入社1年目は営業部で広告営業を経験しました。銀行員時代との違いは感じましたか?
甲岡 銀行はお客さんとお金の貸し借りをするので、どうしてもシビアになる場面があります。その分、やりがいや学びは多く、今の自分の土台になりました。一方で広告の現場では、自分の会社や店、商品をもっと知ってほしい!という前向きな思いを聞くことが多かったです。銀行で身に付けた営業の基本スタイルは、熊日でも役立ちました。一方的にセールストークするのではなく、相手の言葉に耳を傾け、ニーズをくみ取る姿勢を大切にしています。
新聞社の社風も銀行と同様、堅いイメージがありました。しかし同僚や先輩は人間的な温かみがあって、中途入社の私に気さくに接してくれました。
―これからどんな仕事をしていきたいですか?
甲岡 熊日のビジネス部門の仕事は、決まっていることを決まったとおりにやるだけではありません。Bスタをはじめ、いろんなセクションで新しいことへの挑戦が始まっています。これからも先輩や同僚に背中を押されながら、チャレンジを続けていきたいと思います。
1日の流れ
6:30 | 出勤前に、プライベートでとある高校の陸上競技の朝練を手伝っています。 |
---|---|
9:30 | Bスタに出勤。1日のスケジュールやメールをチェック。 |
10:00 | 行政からの受託事業で、今後実施するイベントについて主催者と打合せ。 |
12:00 | 先輩社員やBスタの会員さんと一緒にランチ。近くにある市中心部の店を日々巡っています。 |
13:00 | 熊本駅前のXOSS POINT.に移動し、起業をテーマにしたセミナーの準備 |
14:00 | イベントスタート。起業家が講師を務め、経験を語ってもらった。約30人が受講し盛況でした。 |
17:00 | イベント終了。参加者のみなさんと名刺交換。県外から来た方も。 |
18:00 | イベントの様子を、公式Facebookに投稿。明日の予定を確認して退社。 |
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