4月20日付

4月20日 09:21

 窓からのぞく中国人少女の顔。脅[おび]えとも空疎とも、何とも表現しようのない表情を浮かべている。そのはるか彼方を銃を抱えて遠ざかっていく兵士の列-。県立美術館本館で開催中の版画家・彫刻家の故浜田知明さんの回顧展に出品されている「忘れえぬ顔B」だ▼中国での行軍を描いた作品だという。少女と兵士たちの間に何があったのか直接的には表現されていない。ただ想像はできる。浜田さんの記憶に深く苦く刻まれた「顔」は、戦争には被害だけでなく加害の側面もあることを静かに訴えかけている▼自らの従軍体験をもとにした「初年兵哀歌」シリーズや現代社会を鋭く風刺した作品で知られる浜田さん。回顧展は、造形作家としての全ての足跡をたどる内容だが、創作の原点である「戦争」がやはり心に残る▼浜田さんは、戦争の記憶が薄れ、武力を行使することへの抵抗感がなくなりつつある今の日本を憂えていた。晩年まで繰り返し戦争を主題にした作品を作り続けたのも、時代に対する作家としての問い掛けだったのではないか▼<今の平和というのは(戦争が起きるという)不安の中で、かろうじて維持されている平和だという気がするんです>。かつて県立美術館のインタビューにこう語っていた▼美術館の外に出ると、まぶしい新緑の中で、子どもたちが無心に遊んでいた。平和な光景だ。平成が、「かろうじて」戦争のない時代として終わろうとしている。次の時代もそうあり続けられるだろうか。静かで重い問い掛けである。