4月10日付

4月10日 08:01

 小川洋子さんの小説『博士の愛した数式』(新潮文庫)の主人公である記憶が80分しかもたない老数学者は、研究対象の整数を<数学の女王>と表現する。女王のように美しく、気高く、悪魔のように残酷でもある、と▼先日、その女王についてのニュースがあった。30年以上にわたり未解決だった数学の難問「ABC予想」を、望月新一さん(51)が証明したという。整数の足し算と掛け算の関係にまつわる予想だが、残念ながら詳しい解説は小欄の手に余る▼それも無理はあるまい。何せ16歳で米国の名門大に飛び級で入学、32歳で京都大教授に就任した俊英である。ほとんどの数学者が理解できないような理論を駆使しているそうだ。「重要かつ困難な問題を解決した」との評価もうなずけよう▼一方、人間社会の重要かつ困難な問題は、解決どころか混迷の度を深めるばかりである。新型コロナウイルス禍を受け、安倍晋三首相が出した緊急事態宣言のことだ。休業要請の対象や損失補償を巡り、足並みの乱れがあらわとなっている▼特に補償についての国の消極姿勢が際立つ。「休業と補償は表裏一体」との声に対し、首相は「現実的ではない」。不公平が生じかねず、対象者が多く時間がかかるため、というが、緊急経済対策の現金給付は諸外国と比べて見劣りがする▼まさか休業や自粛はあくまで「要請」で、あとは自己責任と考えているわけではあるまい。さらなる感染拡大を阻止するため、今こそありとあらゆる手だてを講じるときである。