「妊娠の否認」女性支えて<ゆりかご15年>連載 第6部④
「匿名出産を選ぶ女性の傾向を挙げるとしたら、“妊娠の否認”を経験していることです」。パリで養子縁組に取り組んできた団体「FAF」のドレットル代表はこう語る。「妊娠の否認」とは、妊娠していることを全く認識していなかったり、自分で認めなかったりする状態を指す。
ドレットル代表らはあるケースを教えてくれた。昨年、団体と信頼関係にある産科病院から出産中の女性について相談の電話が入った。その女性は出産するまで、妊娠していたことを知らなかったという。取材した11月中旬、女性は匿名出産後に子どもを自分で育てるかどうかを決める2カ月間の猶予期間中で、病院の心理セラピーを受けていた。
FAFを訪れる女性の多くは、妊娠から5カ月ほどたっていても出産への準備ができておらず、「ただ驚いているだけ」だという。スタッフは時間をかけて、経済的な問題、親やパートナーとの関係を整理して、女性たちが失った時間を取り戻していく。こうした働きかけもあり、2020年に匿名出産の相談に訪れた33人のうち、実際に匿名出産したのは3人だった。養子縁組でわが子を手放すことにした母親に対しては、「喪失の手続きの時間を十分に取る必要がある」とケアの大切さを訴える。
パリの妊娠葛藤相談窓口「モイーズ」のステファンさんらも、出産に備えるまでの時間の短さを指摘する。「妊娠してから、つらいことがあったり、(妊娠以外の)他のことで頭がいっぱい。通常は9カ月間必要な母親になる準備期間が、彼女たちには数カ月しかない」
望まない妊娠だったり、望んでいてもパートナーに認めてもらえなかったり。ショックを受けた女性たちは妊娠の事実を受け止められず、あるいは妊娠した事実を否認し、気付かないようにする-。「望んでいない子どもが体の中にいることは、十分気を動転させる。そういうプロセスをたどるのは、一般的なこと」。自身の親との関係が良くないことも多く、ステファンさんらは立ちすくむ女性たちを見守り、寄り添い続ける。
妊娠の否認は、生まれてくる赤ちゃんにも影響を与える。パリ市養子縁組機関の責任者のベルデルさんは「否認を経験した赤ちゃんは(愛情など)エネルギーをかけられていない」。赤ちゃんは「常に自分が一番」だと扱われることを求めており、抱っこされていないと不安になるという。このため、縁組する際はいつもそばに家族がいることができる家庭を選んでいる。
モイーズのスタッフは、時には出産に立ち会うなどして、困難を抱える妊婦との関係を築いていく。「母親の苦しみを取り除くことで、子どもが抱える重荷も減っていく。母も子も、自由の翼を得ることができるのです」(「ゆりかご15年」取材班)
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