説明なく通知に不信感 交通死亡事故遺族 [くまもと発・司法の現在地/不起訴の陰影⑤]
息子をはねた相手は不起訴になる-。交通死亡事故の被害者遺族の平井沙紀さん(45)は2月中旬、熊本地検天草支部で処分の見通しを告げられ、がくぜんとした。
次男の直哉さん=当時(21)=を亡くした事故から1年。検察から連絡を受けたのは、これが初めてだった。「納得できなければ、検察審査会に申し立ててください」。担当の副検事から詳しい説明はなく、対応は事務的に映った。
「アフリカでインフラ整備に携わりたい」という夢を抱いていた直哉さんは、2021年2月11日夜、アルバイト先の飲食店から歩いて帰宅中、天草市小松原町の国道324号で事故に遭った。天草署によると、横断歩道を渡っている時に軽乗用車にはねられ、運転していた男性=当時(60)=から路上で介抱されていたが、そこへ軽ワゴン車が走ってきた。2人は同時にはねられ、死亡した。
軽ワゴン車を運転していた50代の男性は、自動車運転処罰法違反の疑いで、現行犯逮捕された。送検後、処分保留で釈放され、任意で捜査が続いていた。
平井さんは、不起訴の見通しを知らされた後、弁護士を通して事故についての疑問点を検察に問い合わせた。しかし、返答はないまま、3月に入って自宅に郵便で封書が届いた。2月28日付で男性を不起訴にしたという通知だった。
事故の状況から、男性を潔白とする「嫌疑なし」とは考え難い。有罪の証拠が足りない「嫌疑不十分」なのか。情状を考慮して訴追を見送る「起訴猶予」なのか。処分の理由は一切明かされなかった。熊本地検は、熊本日日新聞の取材にも「回答を差し控える」と理由を説明していない。
不起訴となって裁判は開かれず、事故の真相を知る機会は失われた。やるせない現実に、遺族の悲しみは深まった。
「息子がどのような最期を迎えたのか、裁判を通して加害者の口から聞きたかった。2人も亡くなった事故が不起訴になるなんて、納得できない」
事故後、平井さんは犯罪や事故で家族を亡くした遺族の会に参加し、同じような境遇の人たちと交流してきた。「交通死亡事故の処罰は軽い」と疑問を抱き、検察審査会への申し立てを検討している。
不起訴から2カ月後の4月下旬、思いがけない連絡があった。事故の相手方の男性が、損害保険会社を通じて面会を申し入れてきたのだ。
平井さんは5月中旬、弁護士と友人に同席を頼み、男性を自宅に迎えた。男性は仏壇に手を合わせて謝罪した後、質問に答えた。「気付いた時には前に2人がいて、ブレーキを踏もうとしたが、間に合わなかった」。事故の状況と男性の思いを聞き、少し気持ちが整理できた。
一方で、新しい疑問も湧いた。男性が不起訴の意味をよく理解していなかったからだ。「検察はきちんと説明したのだろうか」。言葉を尽くさない検察の姿勢に、不信感が膨らんでいる。(司法の現在地取材班)
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