阿蘇のカヤ、万博の屋根材に 阿蘇グリーンストックの事業会社「魅力伝えるチャンス」 本格販売から5年目
公益財団法人阿蘇グリーンストックの事業会社「GSコーポレーション」(阿蘇市)が販売する阿蘇の草原育ちのカヤが、2025年に開幕する大阪・関西万博のパビリオンの屋根材に使用される。同社がカヤ販売を本格化して今年で5年目。販売を担当する山本保孝さん(55)は「阿蘇のカヤの魅力を広く伝えるチャンス」と意気込む。
カヤが使われるパビリオンは万博会場の中央に位置し、天草市出身の放送作家・小山薫堂さんが監修する。建物は建築家の隈研吾さんがデザイン。山本さんらは屋根材用に、約3千束を出荷する予定だ。
グリーンストックの増井太樹専務理事は3月、隈さんと対談。隈さんは「人の手で維持されている草原から生まれるカヤは、現代人が忘れてしまった自然の循環を思い出させてくれる」と価値を語ったという。
GSコーポレーションのカヤ販売は、草原を管理する牧野組合などの収入源を増やし、野焼きへの意欲を高めようと、16年からの現地調査などを経て20年に本格化した。同社の刈り取るカヤは年間5千~6千束で、牧野組合に草原の使用料を支払う。牧野組合の出荷分と合わせて取扱量は年間約8千~約1万1千束。
当初は文化財の屋根のふき替えを手がける京都府の会社にのみ販売していたが、山口県や大分県などにも販路を広げた。「産地は全国的に少なく、慢性的な供給不足」と山本さん。
事業を安定させるためには年間1万束の出荷が必要だが、到達は22年のみ。天候に左右されたり、人手不足だったりして収穫量が伸び悩む。牧野組合からの出荷分も、22年の約5千束をピークに近年は約3千束と低調だ。山本さんは「阿蘇の草原面積は、国内最大産地である富士山麓の静岡県御殿場よりも広い。今の2倍以上は収穫できるはず」と潜在能力の高さを話す。
永草原野管理委員会(阿蘇市、約90人)は毎年、同社に2~3千束を出荷。刈り払い機を使った収穫作業に参加できるのは10人ほどという。橋本裕治委員長(67)は、収量増への課題として「上質なカヤは急斜面に育つ。高齢者が半数以上を占める委員会のメンバーだけでは限界がある」と指摘。自走式の草刈り機の導入などで収穫作業が省力化されれば「事業として本腰を入れられる」という。
カヤの刈り取りは牧野組合などの収入増だけでなく、野焼きの安全性向上にもつながる。カヤの量が減れば、火の勢いが抑えられるからだ。山本さんは「活用せずに燃やしてしまうのはもったいないという考えが、万博をきっかけに地元にも広まればうれしい」と話した。(小田喜一)
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