【この人に聞く・熊本地震36】熊本労働基準監督署長の江上吉成さん 復旧現場のアスベスト、懸念は 「阪神・東日本より厄介」
住宅の公費解体が進んで更地が増え、ビルの解体現場が目立つようになった熊本地震の被災地。復旧工事が急速に進む一方で、労災事故の増加やアスベスト(石綿)による作業員の健康被害の可能性が懸念されている。労働環境の観点から見た復旧工事現場の課題について、熊本労働基準監督署の江上吉成署長に聞いた。(上田良志)
-労災事故防止の対策は。
「人手不足からか、経験が浅く危険性を認識していない作業員が多い。現場の安全対策は20年前に戻ったような印象だ。立ち入り調査を強化しているが、現場の数が膨大で、残念ながら回りこなせていない」
「安全教育の周知徹底を図ろうと、経営者に直接、安全最優先を呼び掛けている。安全対策には費用がかかるため、経営判断に関わるからだ。ただ、現場には県外からの下請け業者が多く、周知が思うようにいかないのが悩ましい」
-県は被災家屋の解体作業終了の目標を2019年3月と掲げていますが、業者からは「せかされている」との声も出ています。
「自治体が目標を掲げるのは当然だ。しかし、業者が『復興のスピードアップを最優先すべき』と受け止め、安全面がおざなりになる一因となっていることは否定できない。工事を発注する自治体と協力し、実効力のある安全対策を打ち出さなければならないと考えている」
-火災や津波で多くの建物が消失した阪神や東日本の両大震災と比べ、損壊した建物がそのまま残る熊本地震の被災地では、アスベストの飛散の危険性が高いのではないかと懸念されています。
「労働環境の視点でいえば、両震災と比べて最も厄介な復興になる。アスベストは十数年から50年ほどの潜伏期間を経て、肺がんや中皮腫など重い呼吸器系疾患を引き起こす可能性がある。労災事故と違ってひそかに進行するだけに、注意が必要だ。アスベスト対応ではない風邪用のマスクで済ませている作業員もおり、将来の健康被害発生を非常に危惧している」
「労働者だけでなく、ボランティアなども工事現場に入れば危険性は同じ。復興のスピードに水を差すかもしれないが、自治体とも連携し、労働者以外にも危険性と安全対策の周知徹底を図っていかねばならない」
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