【連鎖の衝撃 行政編⑧】 警察官動員、配置に課題も
熊本地震の「前震」発生から2時間余り。4月14日午後11時37分、被災者救出のため、福岡県警の広域緊急援助隊226人が第1陣として、集合場所になった熊本市の県民総合運動公園に着いた。その後も佐賀、鹿児島など九州各県をはじめ、中国、近畿地方からも続々と到着し、15日夕までにその数は1千人に膨らんだ。
広域緊急援助隊は、1995年の阪神大震災を教訓に、大規模災害で早期に警察官を大量投入することを可能にするため、警視庁と道府県警がそれぞれつくった組織だ。
救出や行方不明者の捜索に当たる機動隊中心の「警備」、緊急道路の確保などを任務とする「交通」、検視などを担う「刑事」の3部隊がある。全国で現在、計約5600人が通常の勤務とは別に兼務している。
食料は持参し、宿泊場所も自力で確保するなど少なくとも3日間は自己完結できる部隊で、熊本地震では5月23日までに、全国から延べ約1万8千人が駆け付けた。
益城町では、倒壊した家屋の中から生後8カ月の女児を無事助け出すなど、「本震」翌日の4月17日までに150人以上を救出した。ただ、受け入れ側の熊本県警からは「現場の状況を的確に把握し、大量動員された隊員を効果的に配置・活用するには課題もあった」との声が漏れた。
本震後、南阿蘇村では、国道57号が寸断され、接続する国道325号の阿蘇大橋も崩落。県道熊本高森線の俵山トンネルも損壊し、不通となった。熊本市から同村へ通じる最短ルートはグリーンロード南阿蘇だけ。村内に入ってからも、あちこちで道路が崩れ、孤立地区や捜索現場への到着に手間取った。
「現地に指揮所があれば良かったのではないか」。県警幹部はそう振り返った。
広域緊急援助隊の派遣は5月20日に終了したが、その後も避難者の留守宅が並ぶ住宅街のパトロールなどのため、他県警が支援を続けている。東海大生向けのアパートが並ぶ南阿蘇村黒川地区では、鳥取県警自動車警ら隊も任務に当たった。
アパートは大半が倒壊し、学生3人が犠牲になった。本震が同地区を襲う前までは、学生約800人が暮らしていた。地震後、学生たちはほとんど着の身着のまま実家などに避難。5月初旬、その隙を狙った空き巣事件が発生した。
鳥取県警の豆田翔巡査部長(32)ら3人は24時間態勢でパトカーと徒歩で巡回。「免許証か学生証を確認させてください」。荷物を取り出しに来た学生たちにも確認を求めた。家人を装って侵入するケースがあるからだ。
「被災者に確認するのは心苦しいが、犯罪は絶対に防がなければならない」と豆田巡査部長は力を込めた。
他県警の応援は6月下旬まで継続するが、その後は未定。余震が続き、梅雨期を迎えて土砂災害の危険も高まる。特に南阿蘇地域では主要道の復旧も見通せず、土砂災害で再び孤立する恐れもある。県警災害警備本部の緒方三明警備2課次席は「これからが正念場。被災の大きい地域を抱える警察署の人員配置を含めて検討していかなければならない」とまなじりを決した。(藤山裕作)
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