【連鎖の衝撃 経済編④】半導体関連 回復早い工場も 東日本教訓 耐震策が機能
「これなら復旧できる。いくしかない」。マグニチュード7・3の本震が襲った翌日の4月17日夜、半導体大手ルネサスエレクトロニクス子会社の川尻工場(熊本市南区)の佐竹和也工場長(57)は、工場内の状況を写真で確認すると、自らにそう言い聞かせた。
熊本地震では県内の多くの半導体製造拠点にも大きな被害が出た。ルネサス川尻工場も設備が移動したり、生産途中の製品が破損したりしていたが、地震の規模に対して被害は軽かった。東日本大震災の教訓を基に進めてきた耐震策が“奏功”した。
東日本大震災では、ルネサスが世界シェア4割を占める自動車用半導体を手掛ける那珂工場(茨城県ひたちなか市)が被災、全面復旧までに半年を要した。この影響で多数の自動車メーカーの生産が止まる事態になった。
これを受け、同社は事業継続計画(BCP)を強化して地震対策に約100億円を投資。震度6強の地震が発生したとの想定で、加速度計をつけて生産設備を実際に振動させる実験を行うなどして地震の影響を調べた。
分析結果を基に、生産設備を免震台の上に置いたり、ねじで固定したりしたほか、半導体の基板となるウエハーを入れるガラス部品の備蓄を増やす対策などを実施。川尻工場を含む国内主力拠点は2013年9月までにすべて対策を終えた。
同社は、震度6強の地震で被災した場合、30日間で一部再開、60日間で生産能力を復旧する目標を掲げる。熊本地震で、川尻工場は本震から6日後の4月22日に一部工程で生産を再開。約1カ月後の今月22日には全工程で生産を再開し、目標をはるかに上回るペースで震災前の能力を回復した。
佐竹工場長は「対策を進めているときは正直、半信半疑だったが、実際に被災してみると対策に意味があったことが良く分かった。何も対策をしなかったら復旧はもっと遅れたはずだ」と胸をなで下ろした。
県企業立地課によると、県内には半導体関連の主な工場が約120カ所あり、半分以上が何らかの形で再開している。三菱電機のパワーデバイス製作所熊本工場(合志市)も9日に一部操業を再開し、5月末には完全復旧する見通しだ。機械装置や建物の復旧費用などに100億円の損失を見込む製造装置大手の東京エレクトロン合志事業所(合志市)も、6月末までに完全復旧する予定。
ただ、被害が深刻な企業の中には、復旧に時間がかかっているところもある。ソニーの子会社ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(菊陽町)では、地震の衝撃で生産装置がずれ、ウエハーを運ぶ設備も落下した。
BCPに沿って製造ラインの設備を固定するなどの対策を実施してきたが、「余震が多く、安全確保を優先した結果、稼働チェックに時間がかかった」と同社。工場は5月9日から段階的に生産を再開したものの、震災前の生産能力に戻るのは10月ごろになる見通しという。
地方経済総合研究所の東和貴主任研究員(39)は「一概には言えないが、復旧は比較的早く進んだ印象だ。ルネサスをはじめBCPが機能したと言える」と各社の対応を評価。
「ただ、半導体は県内の生産活動をけん引してきた分野だけに、今後の復旧が遅れれば、地域経済への影響は避けられず、拡大する恐れもある」と指摘した。(高宗亮輔、小林義人)
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