【連鎖の衝撃 避難編⑨】 被災者支える「民」の力 ボランティア、1カ月で延べ6万人超 阪神・東北の教訓、熊本に
県立大3年の岩崎貴夏矢[たかや]さん(20)=熊本市東区=は4月16日未明、突き上げるような激しい揺れに跳び起きた。大学に避難して、運動場を埋め尽くす群衆に目を見張った。
相次ぐ余震と停電で大混乱の大学で、岩崎さんたち学生が動いた。大学にあった水や毛布を配る。使用可能なトイレマップを作る。「精神状態とトイレの状態は比例する」と掃除も欠かさなかった。1500人以上の避難者に行き渡るように、一つのパンを分けて配ったりもした。
市から応援もない中で、学生100人以上が無料通信アプリ「LINE」で情報を共有し、役割分担した。向かいの熊本赤十字病院から受け入れた高齢者や要介護者の介助も、施設での実習経験がある環境共生学部の学生らがあたった。「手伝うよ」と声を掛けてくれた住民もいた。
しかし、24時間態勢で運営を担った学生たちは疲弊していた。同大は18日、避難所の規模を縮小。岩崎さんは「人と人のつながりの大切さを実感した」と振り返る。
◇ ◇
地震発生当初から、多くの人々が物資を手に熊本入りしていた。各自治体が災害ボランティアセンターを設置すると、その動きは加速した。熊本市ではセンター開設初日の22日に約800人が列をつくり、大型連休前半は希望者が支援ニーズを上回って受け付けを打ち切るほどだった。
家の片付けを手伝ってもらった同市南区の女性(84)は「家族だけではどうにもならなかった」と涙ぐむ。その後も週末には約千人が訪れる熊本市社会福祉協議会事務局長の中川奈穂子さん(51)は「延べ2万4千人以上が力を貸してくれた」と感謝する。
開設から1カ月で、県内全域に延べ6万人を超えるボランティアが訪れ、被災者を勇気づけた。地震から1カ月半。「これからは生活支援に力を入れたい」と中川さん。仮設住宅での新たな人間関係づくりや買い物代行…。求められる支援のかたちも変化していく。
◇ ◇
5月20日、県庁の会議室。NPO法人や民間企業の関係者らが、情報共有する「熊本地震・支援団体火の国会議」では、日中も避難所に残る高齢者をどうやって活気づけるか、意見が交わされていた。まとめ役は、名古屋市のNPO「レスキューストックヤード」代表の栗田暢之さん(51)。阪神大震災以来、40以上の災害現場を知る支援のエキスパートだ。会議には内閣府の職員も加わる。
同NPOは拠点避難所内のレイアウトなどを行政に助言。「行政は公平平等が原則だが、民間は一人一人の意見を聞ける。ともに被災者の『くらしの再建』が最終目標。もっと協力できるはずだ」
仮設住宅、特に「みなし仮設」入居後は、被災者の孤立化も懸念される。「阪神や東北でも孤独死があった。教訓を生かしたい」と栗田さん。大災害を乗り越える中で培われた知恵とつながり。熊本の復興には、「民」の力が欠かせない。(西國祥太)=「避難編」おわり
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