【連鎖の衝撃 建物編③】 5市町の庁舎、使用不能に 建て替え、耐震化進まず 財源厳しく、学校など優先
「これはとんでもないぞ」。本震の起きた4月16日未明。宇土市危機管理課参事の渡辺佳助さん(36)は災害対策本部の置かれた市役所別館にいた。突然の激しい揺れに、フロアに立っていることもできない。長い揺れが収まり、頭をかすめたのはすぐ隣の本庁舎のことだ。
暗闇の中に降りて見上げた本庁舎は、上階が押しつぶされ、少し傾いているようだった。前震には耐えたが「2回目がきたらだめだろう」。職員たちが口々に言っていたことが現実になり、ぼうぜんと立ち尽くした。「もし別館に倒れてきたら…」。すぐに次の心配が頭をもたげ、居合わせた職員総出で災対本部の機能を戸外の駐車場に移した。野戦の指揮所のような業務の始まりだった。
益城、大津、八代、人吉。宇土市と同じように、熊本地震で使えなくなった本庁舎は計5市町に上る。5月2日に使用再開した益城町を除く4庁舎は、新耐震基準に適合していなかった。総務省消防庁のまとめ(2015年3月時点)では、全国の庁舎の耐震化率は約75%。学校校舎・体育館の95%に比べて大幅に遅れている。
宇土市で本庁舎の耐震不足が指摘されたのは03年。市は小中学校や市民体育館など他の公共施設の建て替えや耐震化を優先させ、庁舎を後回しにした。「防災拠点として庁舎の重要性は認識していたが、市民に先んじての耐震化ははばかられた。とりわけ学校が最優先だった」と市幹部は話す。
財源が限られる中、市にもくろみがなかったわけではない。あてにしたのは合併特例債だ。平成の大合併を推進しようと、国は05年度までに合併した市町村を財政支援。多くの市町村が特例債を利用して庁舎などを建て替えた。宇土市も旧富合町(現熊本市)と合併を協議したが、結果的に実現しなかった。
ほかの市町村にも同様の事情があり、大津町は「学校の新設や増設を優先した」、人吉市は「財源の確保が難しかった」と話す。
宇土市の山本桂樹企画部長(59)は「合併破談が痛かったのも事実。自治体単独での建て替えは非常に厳しい。(地震に)間に合わなかった」と無念さをにじませる。災対本部は現在市民体育館に移り、市の業務は数カ所に分散されている。
宇土市が今後の庁舎再建に必要と見込む費用は約40億円。学校などの耐震化を進める傍ら、92年から積み立ててきた基金は10億円しかない。耐震工事のために地方債を発行する場合には国の支援制度があるが、新庁舎建設には利用できない。
崇城大工学部の内丸惠一講師(建築論)は「防災拠点や避難施設としての庁舎の重要性を、市民が実感することになったはず。庁舎を一から再建するのは大変厳しく、国はできる限りの支援をすべきだ」と提言する。(丸山宗一郎、西島宏美、平井智子)
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