【連鎖の衝撃 避難編③】 住む家求め“争奪戦” 日常遠く「帰宅は困難」
大型連休中の3日、熊本市役所9階であった市営住宅の抽選会。「9番」「36番」…。次々に掲げられる当選番号を、立会人は息を詰めて見つめていた。家を失った被災者に提供される250戸に対して3949件の応募が殺到し、平均倍率は約16倍に上った。
立会人を務めた20人も応募者だ。倍率90倍の中央区で抽選に漏れた鶴田桑子さん(51)=同区新町=は「この数では無理ですよね」と言葉少な。食堂を営む2階建ての店舗兼住居は築80年以上で、余震の度に瓦が室内に落ち、店入り口には「赤紙」が張られている。
地震発生から1カ月が過ぎ、ライフラインの復旧に伴って市内の避難者は減った。それでもなお、2500人以上が避難所に身を寄せる。
市が5月初めに実施したアンケートでは、避難者5638人のうち1993人が「自宅が全半壊で帰宅は当面困難」と回答した。市は、仮設住宅800戸分の事業費約58億6千万円を確保。被害の大きい南区城南町や東区東野などで約450戸の月内着工を進めるほか、民間住宅を無償で提供する「みなし仮設」制度も活用する。
しかし、行政支援を受けるために必要な罹災[りさい]証明書の申請では、4万件を超える人が「半壊以上」と申告。家屋調査が追いつかない。大西一史市長も「今後、仮設住宅のニーズが増える可能性もある」とみる。支援制度を利用せずに転居する人も多く、住居の“争奪戦”が続く。
「不動産屋を5軒ほど回ったが、空き物件が全然ない」。地震発生から1カ月のある午後、中央区の古城堀端公園に避難中の男性(39)はそうこぼした。自宅マンションは壁や柱が破損し、玄関は枠がゆがんで閉まらない。同じ校区で引っ越しを考えているが、見つからないという。「上の娘が高校受験なので学ぶ環境は変えたくないのだが…」
◇ ◇
住宅は無事でも、余震への不安から避難生活を続ける人もいる。南区のパート女性(43)は、夫が仕事で不在の夜、5歳の娘と自宅近くで車中泊をしてきた。本震があった4月16日も一晩中、車の中で余震に身を震わせた。築2年の自宅に大きな被害はないが、心に染み付いた恐怖が、ぬぐえないでいる。
「周りはもう大丈夫と言うけれど、やっぱり怖い。今は車のほうが落ち着いて眠れるんです」。前述のアンケートでも、避難所からの帰宅の条件に「余震の終息」を挙げた人が、1449人いた。
2004年の中越地震(新潟)など、過去の地震と比較しても、熊本地震の余震の多さは群を抜く。避難の長期化を見据える市は、生活環境に配慮した拠点避難所21カ所を設けた。西区の花陵中から拠点の西部公民館に移動した西野京子さん(73)は「避難所にいたほうが安心。自宅をどうするかは、余震が落ち着かないと考えられない」。
「日常」を取り戻したいと願う避難者。余震への恐怖が、その道のりを阻む。(石本智、高橋俊啓)
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