運転士が不足、減便相次ぐ 熊本県内鉄道各社 離職者増え待遇改善が急務に 大手私鉄と人材争奪戦も
熊本電気鉄道(熊本市)と肥薩おれんじ鉄道(八代市)が相次いで、2月からの列車の減便を決めた。背景には深刻な運転士不足がある。関東の大手私鉄などとの人材の奪い合いも激化。地域の足をどうやって守っていくのか─。行政も「知恵を絞らなくてはならない」と危機感を強めている。
「1、2月に退職するとの申し出が複数の運転士からあった」。1月7日、熊本電鉄は2月3日から減便することを発表し、理由をそう説明した。運転士は定員9人に対し、7人で運行してきたが、そのうちの3人が退職を申し出た。運行本数を減らす割合は曜日によって異なるものの、現行より24%から34%、少なくなる。始発を遅め、終電を早める対応も取る。
1月10日には第三セクターの肥薩おれんじ鉄道が2月1日からの減便を発表した。熊本電鉄の公表からわずか3日後のことだった。
2004年の開業以来初めての減便となる。こちらも退職希望者が相次ぎ、運行体制の維持に必要な運転士35人に対し、4人が不足する見通しとなったことが理由だ。熊本県内の区間では、早朝の上下線1本ずつを対象とする。
ほかの第三セクターも運転士不足に直面している。南阿蘇鉄道(高森町)は駅での運転指令業務を含め運転士7人でシフトを組んでいる。「各部署を兼務しながら運行を維持し、ギリギリのところで踏ん張っている」と担当者。運転士の養成には1年を要するため、社員の募集は続けざるを得ない。
くま川鉄道(人吉市)は20年の熊本豪雨で被災し、一部区間で不通が続く。運転士の資格を持つ12人で指令業務などを含めて対応できているものの、26年度上半期に予定する全線復旧後には人手が不足する懸念もある。「運転士は随時募集しているが、なかなか集まらないのが実情だ」と同社運輸課。
ここにきて、県内で運転士の離職が相次いでいるのはどうしてなのか─。交通関係のコンサルティング会社、トラフィックブレイン(東京)は「コストカットに重きを置き過ぎたため」との見方を示す。太田恒平社長は「十分な人件費を確保できない事態を招き、従業員にしわ寄せが来ている」と指摘する。
人材争奪戦も激しくなる一方だ。県内の鉄道会社の幹部の一人は「東京などの大手私鉄が中途採用を積極的に進めている。地方鉄道は待遇面でかなわない。引き留めが難しい」と打ち明ける。「研修に時間をかけて、やっと一人前になった運転士が早々に退職するケースもある」
こうした状況を踏まえ、県の富永隼行企画振興部長は「運転士を確保するには待遇改善が必要だと認識している」と話す。交通渋滞の改善に向けて公共交通の利用促進を掲げているだけに、「行政が交通事業者の経営体力の向上のために何ができるかを考えていく」と強調した。
行政に対し、トラフィックブレインの太田社長は「公費投入は喫緊の課題だ。その意義を納税者や社会に説いていく覚悟を決めないといけない」と注文した。(立石真一)
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