胎児期にダイオキシン類高濃度汚染 「カネミ油症」認定患者の子 民間プロジェクトが調査
1968年に西日本一帯で起きた食品公害「カネミ油症」で、長崎県から患者認定された五島市の女性(75)の子ども3人のへその緒を調べたところ、残留するダイオキシン類の濃度が認定患者並みに高かったことが12日、民間の調査で分かった。3人は患者認定されていないが、胎児期に母親を通じて高濃度の汚染を受けていたことが明らかになった。
熊本県水俣市であった水俣病事件研究交流集会で報告された。水俣病でも化学物質のメチル水銀がへその緒から胎児に移ったことが分かっており、胎児性世代の被害が問題となっている。
カネミ油症の被害者の子や孫は、汚染された米ぬか油を直接食べた親世代より、診断基準の一つである血中のダイオキシン濃度が低い傾向が見られる。調査は子や孫の世代の救済を進めるため、支援者らが昨年1月に始めた「へその緒プロジェクト」の一環。五島市の認定患者の女性(75)が保存していた子ども3人のへその緒を使い、民間の調査会社に分析を依頼した。
健常者12人や認定患者18人の平均値と比べた結果、ダイオキシン類の毒性の強さを示す「TEQ濃度」の数値が長男(故人)は認定患者の1・6倍、次男(49)は1・0倍、長女(47)は0・6倍。健常者と比べると、12・9倍~5・2倍だった。
カネミ油症の主因とされるポリ塩化ジベンゾフランの数値は、長男が認定患者とほぼ同じで、次男と長女は認定患者の約半分。健常者と比較した場合、39倍~16倍高かった。
73年8月に生まれた長男は、患者の子孫に発生しやすい傾向がある「口唇口蓋[こうがい]烈」や肛門不全、心臓疾患があり、生後4カ月で亡くなった。
プロジェクトは「ダイオキシン類が胎盤経由で3人に移行したことが強く推認される」と結論付けたが、へその緒を用いた調査は国の診断基準に取り入れられていない。藤原寿和・日台油症情報センター長は「国は血中のダイオキシン類の濃度だけでなく、摂取当時の値を示すへその緒の調査を加えるべきだ」としている。(東誉晃)
◇カネミ油症 原因企業のカネミ倉庫(北九州市)が製造した米ぬか油に、強毒性のポリ塩化ビフェニール(PCB)やダイオキシン類が混入し、摂取した約1万4千人が皮膚や内臓の疾患などを訴えた食品公害。厚生労働省の資料によると、認定患者の数は2024年3月末時点で死亡者を含めて2377人。
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