紙面通して、未来考える 熊本県内4校がセミナー

2022年12月18日 09:52

 教育現場での新聞活用の可能性を探るNIE(教育に新聞を)セミナーが9~12月、県内の実践指定校のうち4校で開かれた。県内の教育界と新聞・通信9社でつくる県NIE推進協議会(会長・本田裕紀熊本市立五福小校長)が毎年実施しており、18回目。熊本地震をテーマに生徒らが取材した創作劇や地域、社会の課題について考える授業など、新聞を深い学びに生かした多彩な取り組みを紹介する。(伴哲司、西山美香)

熊本地震での熊日記者の奮闘を軸にした劇を披露した御船中3年の生徒たち=御船町

震災復興、取材重ね劇に 御船中(御船町)

 御船町の御船中(作田潤一校長)は、熊本地震をテーマに被災地取材に奔走した熊本日日新聞の記者や、復興に携わった町内外の人たちを3年生が2年がかりで取材。創作劇や壁新聞にして10月の学習発表会で披露し、働く意味や新聞の役割を考えた。

 取材は昨年9月、道徳副読本「つなぐ~熊本の明日~」で紹介された山口和也・熊日常務取締役を同校に招き、講演を聞くことからスタート。山口常務は熊本地震当時、編集局次長として記者の指揮にあたったことや、記者らが自らも被災しながら、地元紙の使命感を持って取材にあたったことを紹介し「働くとは単にお金をもらうためではなく、社会に貢献する重要な営み」などと話した。

 その後、生徒たちは藤木正幸御船町長や町職員、ボランティアなど復興に奔走した人たちを取材。仕事への思いなどを聞き取り、脚本を書き上げた。

 取材にあたって、熊日スタッフがインタビューの仕方などを指導した。

 劇は将来の夢に思いをめぐらす中学生タケシが、熊日記者やボランティア、町職員らが誇りを持って復興に取り組んだことを見聞きし、「私も周りの人を笑顔にできる、誇れる自分になりたい」と決意するストーリー。震災直後の熊日編集局で慌ただしく記者が取材に向かう様子などを熱演し、生徒や保護者、住民が大きな拍手を送った。

 タケシ役を務めた福嶋一希さんは「劇づくりのための取材を通して、町の復興の裏にいろんな人の努力があったことがあらためて分かった」と話した。

「熊本地震」「御船町の未来」をテーマにクラスごとに壁新聞を作り、発表した

 壁新聞はクラス別に「熊本地震」と「御船町の未来を考える」の2テーマで発表。「熊本地震」では被災当時の様子や藤木町長のインタビュー、町の防災対策などを幅広く紹介した。「御船町の未来を考える」では、高齢化や交通量の増加などを問題提起。レイアウトや見出しなどで工夫を凝らした新聞が並んだ。

 同校では「読解力と社会への関心を高める新聞活用」をテーマに、1分間スピーチやワークシート、熊日「読者ひろば」への投稿など多角的な新聞活用を展開。全国学力・学習状況調査で「読むこと」に関する問題の正答率が全国平均を上回ったほか、生徒アンケートで「夢や目標の実現に向けて努力している」との回答が増えるなどの効果がみられた。

 学習発表会後の報告会で、NIE担当の反後彰一朗教諭は「生徒が新聞を通してさまざまな考え方、生き方に触れ、夢を語るようになった」と報告した。

 日本新聞協会NIEアドバイザーの廣松正景・合志市立合志南小主幹教諭は、「生徒らが取材や劇・新聞づくりを通して社会への参加意識を持ち、自分の将来や進路を考えている。社会に開かれた教育にNIEを活用した好例」と評価した。(開催日は10月15日)

2020年米大統領選の報道を分析し、「陰謀論」についてグループ発表した熊本高専八代キャンパスの生徒たち=八代市

米大統領選の陰謀論分析 熊本高専八代キャンパス(八代市)

 八代市の熊本高専八代キャンパス(髙松洋校長)では、リベラルアーツ系「公共」で、1年生約130人が2020年米大統領選の新聞報道とネット情報を比較。当時のトランプ大統領の主張や、同氏支持の背景にある「陰謀論」についてグループごとに発表した。

 米大統領選では、野党民主党の政治家らが反トランプの「闇の政府」をつくっているなどとする陰謀論がSNS(会員制交流サイト)を通じて流れ、「Qアノン」と呼ばれ勢力を拡大した。

 生徒らは遠山隆淑准教授の指導で、熊日や全国紙の報道とネット上の情報を比較。「新聞はトランプ派、バイデン派双方の主張に配慮していた」「ネット上の陰謀論には根拠がなく、不安をあおる動画やツイートが目立った」などと分析。トランプ支持者による米国会議事堂襲撃事件などを踏まえ、「陰謀論には人々の知識や安心を得たい欲求、優越感を満足させる側面があり、誰でも信じる可能性がある」などと発表した。

 発表を終えた内山蓮さん=芦北町=は「ネットにはデマや偽の情報があふれている半面、新聞はしっかりしたところから情報を集めていることが分かった。意見は違っても、相手の立場を思う姿勢が大事だと感じた」などと話した。(開催日は9月26日)

ことわざについての記事が掲載された熊日の紙面を3年生の児童に見せる上土井教諭=御船町

ことわざや伝統工芸学ぶ 滝尾小(御船町)

 御船町の滝尾小(三牧公久校長)は3、4年生国語の合同授業を公開。ことわざや伝統工芸について取り上げた新聞記事を題材に、意味を調べたり内容を要約したりした。

 「新聞にことわざが載っているのはなぜだろう。答えは、小学生に知ってほしいからです」。上土井亨教諭は3年生に呼びかけた。

 児童たちはグループに分かれ、「頭かくして尻かくさず」「三人寄れば文殊の知恵」「情けは人のためならず」などの中から、普段最も使いそうなことわざを選択。辞典などで意味を調べ、タブレット端末にまとめた。

 ことわざを使った例文作りでは、頭を抱える児童も。上田萌結さんは「ことわざはあまり使わないけど、たくさんあると分かった。新聞のことわざは、私たちにも分かるように書いてあると思った」と話した。

 4年生は、博多人形や伊万里焼、有田焼、大島紬[つむぎ]の歴史や特徴、作り方などを紹介した記事の要約に挑戦。記事を読んで分かったことや伝統工芸の良さを見つけて赤線を引き、タブレット端末に記入した。

 博多人形についてまとめた藤岡大悟さんは、長文を要約する難しさに触れ「よく読まないと内容を理解するのは難しい。何回もじっくり読むのが大事だと感じた」と感想を述べた。(開催日は10月26日)

香川県のゲーム条例の記事を音読しながら、意見を交わす砂取小6年1組の児童=熊本市

「ゲーム条例」賛否を議論  砂取小(熊本市)

 熊本市の砂取小(原口琢哉校長)では、6年1組の27人が、香川県の「インターネット・ゲーム依存症対策条例」成立を報じた地元紙などの記事を読み込み、自分の意見や理由を考える授業に取り組んだ。

 同条例はネットやゲームの依存症を予防する目的で2020年4月に施行。ゲームなどの利用時間を1日60分(学校休業日は90分)までとし、子どもに守らせるよう保護者に努力義務を課している。

 砂取小では11月、児童たちが議論し「家でユーチューブを見るのは2時間以内」などのルールを決めた。それを踏まえ、担任の龍忍教諭が「香川では県の『条例』としてゲームの時間を決めた」と紹介。条例成立を報じた四国新聞の記事を児童がタブレットで音読し、意見を交わした。

 児童たちは分からない言葉を調べながら、記事をじっくりと読んで発表。「条例に子どもの意見がどのくらい反映されているの?」「ゲーム依存は大人にとっても問題だと思う」などの声が活発に出た。龍教諭の呼びかけで賛成、反対の立場でどんな意見や議論があるかネットで検索し、自分の考えをまとめた。

 授業を受けた成松清十郎さんは「ゲームの時間は家庭で決めるべきで、条例で強制することなのか疑問に思った」と話した。今後、授業で賛成、反対の立場を話し合う。(開催日は12月13日)

いっしょに読もう!新聞コンクール 県内2人優秀賞

 日本新聞協会は「第13回いっしょに読もう!新聞コンクール」の全国審査の結果を発表した。県内からは、優秀賞に嘉島町立嘉島西小5年の吉富永利加さん、大津高2年の寄川真梨花さんが選ばれた。

 興味を持った新聞記事を読み、家族や友人の意見を聞いて自分の考えをまとめるコンクール。小、中、高、高専生を対象に県内から1012点、全国から5万6998点の応募があった。

 最優秀賞は小学生部門に森川遙人さん(鳥取・岩美北小6年)、中学生部門に河野地里子さん(徳島・鳴門教育大付属中3年)、高校生部門に神尾惺那さん(広島大付属高1年)を選んだ。

 県内のほかの受賞者・受賞校は次の通り(敬称略)。奨励賞 平井琉捺(大津高2年)▽学校奨励賞 南関第二小、大津高、八代白百合学園高

赤ちゃんと母親守りたい 嘉島西小5年 吉富永利加さん

 死んだ赤ちゃんが遺棄され動物に食いちぎられる、母親から風呂に沈められて殺される…。吉富永利加さんは2月26日付の熊日で、「内密出産」や「こうのとりのゆりかご」の実情を国会で訴えた慈恵病院(熊本市)の蓮田健院長の記事に目が止まった。「何の罪もないのにどうして。ショックで涙が出た。どうしたら赤ちゃんとお母さんを守ることができるのか考えた」と振り返る。

 母親に意見を聞き、望まない妊娠をした女性を孤立させない環境づくりの重要性を提案した。「もし友だちがそうなったら、勇気を出して一緒に考えようと伝えたい」と力を込める。考えを深めるうちに、幼いころから多くの人に支えられてきたことへの感謝の気持ちも高まったという。

 小学3年のころから新聞に親しむ。「4こま漫画やスポーツ面が好き。見出しで気になったら、じっくり読む。世の中の今が分かるのが新聞の良さ」と笑顔で語った。(藤山裕作)

慈しみ、思いやる気持ちを 大津高2年 寄川真梨花さん

 「あなたの母になれてよかった」。大きな見出しが目に留まり、寄川真梨花さんは、8月17日付熊日くらし面の連載企画「手紙の向こう側」を選んだ。昨年6月に53歳で亡くなった脳性まひの一人娘との生活を、40年以上にわたって新聞投稿でつづった女性を取材した記事だ。

 記事には笑顔の娘に寄り添い、優しいまなざしを向ける女性の写真が添えられている。寄川さんは母親と記事や写真について話し、親が子を慈しむという当たり前の感情に気づかされたという。「幼児虐待や若者の自殺などを聞くと、命を軽く見ていると感じる。この親子のように互いを慈しむことが当たり前になれば、悲しくて暗いニュースも減っていくと思う」

 記事の中で女性は「生きることのありがたさを、娘が教えてくれた」と語っている。寄川さんは「私も、まず自分が生きていることに感謝して、人への思いやりの気持ちを持ちたい」と語った。(西山美香)

<NIE実践指定校募集>

 県内の新聞・通信各社でつくる県NIE推進協議会は、2023年度の実践指定校を募集している。

【対象】小、中、高校(定時制、通信制を含む)と高等専門学校、短大、大学
【募集数】若干数(審査の上採否を決定する)
【指定期間】原則2年間(1年ごとに更新)
【新聞提供】熊日、朝日、毎日、読売、西日本、日本経済、産経の計7紙を各4カ月分無償で提供(規模によって各2カ月の場合あり)
【その他】記者による出前授業や新聞づくりなどを通して、児童・生徒の読解力、メディアリテラシーの向上を支援する。各校で教職員向けにNIE研修なども開く。
【応募締め切り】2023年1月30日
【申し込み・問い合わせ先】県NIE推進協議会事務局(熊日読者・新聞学習センター内)☎096(361)3073。

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