3月3日付

03月03日 09:10

 詩人の故吉野弘さんに『一枚の写真』という作品がある。<壇[だん]飾りの雛[ひな]人形を背に/晴着[はれぎ]姿の幼い姉妹が並んで坐[すわ]っている>と始まる▼その写真を撮ったのはたぶん父親だが、同時にシャッターを押したものがほかにもいる、と続く。<その名は「幸福」>だと。実生活でも2人の娘がいた吉野さんらしい作品だろう。ほのぼのとした雛祭りの情景が浮かび、心が温かくなる▼きょうは桃の節句。古代中国に起源を持ち、もともとは水辺で体を清め、桃の酒を飲んで邪気をはらう風習だったという。たくさんの実をつける桃は、強い生命力の象徴と考えられていた(岡田芳朗・松井吉昭著『年中行事読本』創元社)▼子どもの健やかな成長は、誰もが願っているはずだ。だが、そんな思いとは裏腹に、悲惨な事件に巻き込まれたり、虐待されたりする子どもが後を絶たない。先日も福岡、鹿児島両県で、幼いきょうだい3人の遺体が見つかる事件があった▼福岡で小学3年の男児の遺体を発見。一緒に暮らしていた父親と3歳男児、2歳女児は鹿児島で見つかったが、子どもは死亡し無理心中を図ったとみられる父親だけが生き残った。どんな事情があったにせよ、なぜ子どもの命まで奪うのか▼3人とも生きてさえいれば、これからたくさんの可能性があったことだろう。大人の身勝手のせいで、何も言えないまま亡くなったかと思うと言葉もない。吉野さんの詩のように、すべての子どもに「幸福」がシャッターを押しますように、と願うばかりである。

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