球磨川漁協、総代会廃止提案へ 30日臨時総会 ダム論議に影響か 

熊本日日新聞 | 2020年11月25日 09:30

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臨時総代会で漁業補償契約の締結議案が否決され、渋い表情を浮かべる理事=2001年2月、人吉市

 球磨川水系の漁業権を持つ球磨川漁協(熊本県八代市、1035人)の理事会が、組合員の代表でつくる総代会を廃止する議案を30日の臨時総会に提出することが24日、分かった。蒲島郁夫知事が川辺川に新たな流水型(穴あき)ダム建設を国に要請するなど、ダム建設の是非を巡る論議が再燃する中、総代から「総代会なしで漁業補償交渉に発展すれば、理事会へのチェックが働かなくなる」と反発する声が出ている。

 総代会は流域の各地区の代表(定員100人)で構成する。定款では、総会に代わり、事業計画や漁業権に関する議案を議決できるとされている。廃止が可決されれば、こうした議案は組合員全員が出席する総会で審議されることになる。

 理事会が臨時総会に提出する議案は、総代会の設置に関する定款の変更など。可決には出席者の3分の2の賛成が必要となる。

 同漁協の組合員はここ10年で4割減少。堀川泰注[やすつぐ]組合長は「総代会は、総代の日当など財政上の負担が大きい。総会の方が組合員の意向を反映できる」と説明。「(ダム計画が再燃する)1年前からあった構想だ」とした。

 これに対し、理事会に批判的な羽手村悦雄総代(人吉市)は「総代会は、役員が勝手なことをしないよう歯止めを掛けてきた。補償交渉の過程が不透明になる」と話している。
 漁協では2017年から、理事ら役員の人事を巡り、一部総代と理事会の対立が続いている。(吉田紳一、益田大也)

◆容認、反対…20年前攻防の舞台

 球磨川漁協の理事会が廃止を提案する総代会は、川辺川ダム着工が目前に迫っていた約20年前、国が示した漁業補償案の受け入れを巡り、建設容認派と反対派が激しくせめぎ合った舞台だ。

 建設省(現国土交通省)は1998年末、ダム着工に必要な最後の法的手続きとなる漁業補償の交渉を漁協に申し入れる意向を示した。これに対し、当時の総代会は「アユ漁などにマイナスばかり」として「絶対反対」を明確に打ち出した。

 しかし、国が漁業権の強制収用をちらつかせる中、条件闘争への転換を求める声が台頭した。2000年9月の臨時総代会で、漁業補償交渉委員会の設置を賛成多数で可決。国は約16億5千万円の補償案を示し、ダム容認が大半だった理事会は受け入れを承認した。

 ただこの間、反対派が求めた臨時総会を再三拒否するなど、理事会の強引な手法に組合員の不満が高まる。01年2月の臨時総代会では約3時間に及ぶ議論の末、補償契約の締結に必要な3分の2以上の賛成に達せず、補償案は否決された。

 総代会の決定を覆そうと理事会が招集した臨時総会でも補償案は否決され、ダム建設は暗礁に乗り上げた。

 当時からダムに反対する八代市のある総代は「組合員の意見を束ねた総代が議論を重ねたことで、容認へ突き進む理事会を止める原動力になった」と振り返る。

 もし総代会が廃止されれば、ダムの是非や補償の在り方に組合員の意見を反映する機会が減ることが懸念される。(益田大也)