里親委託、熊本1割強どまり オンライン座談会など新たな試み

熊本日日新聞 | 2020年10月15日 16:00

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認定NPO法人「優里の会」が開いたオンライン形式の座談会で、養育里親としての実体験を話す女性=熊本市東区

 10月は「里親月間」。さまざまな事情から親元で暮らせない熊本県内の子どもが里親に委託される割合は11.8%(2018年度)にとどまり、委託率の向上が課題となっている。里親制度の普及に取り組む団体は、新型コロナウイルスの影響で従来通りの活動が難しい中、オンライン形式の座談会を開くなど新たな試みを始めている。

「実子に里子のことをどう説明したらいいのでしょうか」
 9月末、ビデオ会議システムを使って開かれた里親希望者向けの座談会。「養育里親」として里子を育てる女性(36)へ、参加者から質問が相次いだ。

 女性は熊本市在住で、学齢期の実子を育てながら未就学児の里子を預かっている。女性は「実子には、里親として子どもを預かることは特別なことではないと繰り返し伝えた。受け入れに慎重だった義理の両親には、子どもたちを兄弟として育てると説明して理解を得た」と語った。

 女性が「里子がいつか実親の元へ帰ると思うと気持ちの整理が難しい。悩んだ時は関係機関に相談している」と語ると、参加者からは「手厚い支えがあると分かった。登録に踏み切りたい」との声が上がった。

 経済的な理由や虐待などで親と離れて暮らす子どもは県内に約740人いるが、9割近くは児童養護施設に入所する。18年度の里親委託率は、熊本市が全国69の児童相談所設置自治体で最低の10・8%。同市を除く県でも下から4番目と低く、県は29年度までに38%に引き上げる目標を掲げる。

 県内の里親登録数は19年8月時点で201世帯。年間1~10世帯が新たに登録する一方、高齢などを理由に外れる世帯もあり、総数はわずかな増減を繰り返している。

 オンライン座談会を主催した認定NPO法人「優里の会」(熊本市)は、出前講座や座談会を開いて里親制度の周知と希望者の掘り起こしに努めている。しかし、コロナの影響で2月末以降の行事は中止に。代わりに企画したオンライン座談会は好評で、10月24日にも開く予定だ。

 八谷斉副理事長は「養育里親は一時保護された子どもの預け先としてもニーズが高まっているが、絶対数が足りない」と言う。

 里親らでつくる県里親協議会は、里親登録者との関係構築に力を入れる。登録世帯のうち実際に里子を育てるか、預かる意向があるのは約半数の104世帯。米田勇人事務局長は「いざ預かるとなると不安を抱く人が多い。困ったらすぐに相談できる関係をつくることで、受け入れ家庭を増やしたい」と力を込める。

 同協議会の熊本市支部は7月から、里親同士が語り合う小規模な会合を始めた。「オンラインの方が参加しやすいという声もあり、コロナの中での交流をどう充実させるか考えたい」と言う。

 県は、里親支援を総合的に担う専門機関を熊本市の中央児童相談所(児相)と八代児相の管轄地域に各1カ所設置する計画を進めている。業務は社会福祉法人などに委託。児童養護施設・乳児院(全15施設)に県と同市が配置している「里親支援専門相談員」や行政・民間の関係機関と連携し、里親の発掘から研修、委託後のサポートまで一貫した支援に当たる。

 県子ども家庭福祉課は「各地域に密着した専門相談員をはじめ、里親に関わる豊富な人材を生かし、委託率向上につなげたい」としている。(深川杏樹)

 里親に関する相談や問い合わせ先は次の通り。▽県中央児童相談所TEL096(381)4451▽八代児相TEL0965(33)3247▽熊本市児相TEL096(366)8181▽県里親協議会TEL090(9561)9147▽認定NPO法人優里の会TEL070(5485)8365

里親制度 親の死亡や虐待など、家庭での養育が困難な子どもを里親が育てる制度。虐待による影響や心身に障害があり、特に配慮が必要な子どもを預かる「専門里親」、養子縁組を前提とした「養子縁組里親」、親族が育てる「親族里親」、それ以外の一般的な「養育里親」の4種類がある。都道府県知事や政令指定都市の市長らが認定し、子どもの生活費や教育費を支給する。里親になるために特別な資格などは不要。県などが実施する研修を修了し、子どもへの愛情があり、健康で経済的に困窮していないなどの要件を満たした人が登録される。