ハンセン病入所者の「解剖願」 提出、一方的に決定 菊池恵楓園、協議の形跡なし

熊本日日新聞 | 2020年9月25日 13:00

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解剖に関する記述が見つかった菊池恵楓園入所者自治会の自治会日誌・会議録など

 国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園(熊本県合志市)が1936~58年、死後の解剖に同意する「解剖願」を入所者から一律に取っていた問題で、療養所が決定事項を一方的に入所者側へ伝える一方、決定前に入所者側の意見を聞いた形跡のないことが24日、同園の調査で分かった。

 恵楓園社会交流会館の原田寿真[かずまさ]学芸員(34)が、入所者自治会の収蔵文書を調べて明らかになった。同園の入所者の解剖は、身元が特定されただけで389体に上ることが分かっている。

 療養所が解剖願を提出させる内規を制定したのは36年12月。原田氏が調べた自治会日誌・会議録では、共同生活を送る「家族舎」の各室長が集まる会議が同月11日にあり、自治会長が解剖願の制定を報告したと室長会議事項に記されていた。同日以降、各室長を通して全入所者に伝えられたとみられる。

 これに対して、原田氏が調べた自治会の文書の中には、入所者と療養所が解剖について事前に協議した記録は一切、見つからなかった。

 一方で、40年9月の室長会議事項には、解剖後の遺体に着物を着せ、人目にさらされないよう配慮することを療養所と自治会で取り決めたとの記述があった。

 療養所が解剖手続きを定めた経緯について原田氏は「一方的で入所者への連絡も形式的だった。人権軽視の姿勢が改めて浮き彫りになった」と指摘。解剖後の遺体の扱いは「きちんと弔いたいという入所者の意向を療養所が尊重したのではないか」と分析している。(木村恭士)