核兵器禁止条約発効 「絶対悪」廃絶の転換点に

01月23日 09:30

 「これが核兵器の終わりの始まりだ」。13歳の時に広島で被爆したカナダ在住のサーロー節子さんが2017年7月、国連本部で語った言葉を思い出す。核兵器の開発や保有、使用を全面的に禁じることを初めて明文化した核兵器禁止条約が122カ国・地域の賛成で採択された日の演説である。

 それから3年半。条約は50を超える国や地域で批准され、22日に国際法としての効力を持った。国際社会が「核なき世界」に向けて歩み始める歴史的な転換点としなければならない。

 条約の前文には「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記された。広島、長崎への原爆投下から70年以上もの時を要し、当の被爆者にとっては「ようやく」との思いに違いない。

 唯一の戦争被爆国である日本にとって意義深い条約だが、肝心の政府は不参加の立場を貫いている。菅義偉首相は22日の参院本会議でも「条約に署名する考えはない」と改めて明言。条約への参加を求める広島、長崎両市長や被爆者団体の声に耳を傾ける姿勢は見られない。締約国会議へのオブザーバー参加についても、同じ与党の公明党から検討を求める声があるにもかかわらず慎重姿勢を崩していない。

 日本は同盟国・米国の「核の傘」に依存。核保有を米英仏ロ中の5カ国のみに限る核拡散防止条約(NPT)を通じて核軍縮を進めるのが現実的との立場を取っているからだ。締約国とは核廃絶のゴールを共有するとしながらも、核保有国と非保有国との「橋渡し役」を担うとの説明を繰り返している。

 しかし、現実にはNPT体制で核軍縮が前に進んでいるとは言えない中、かたくなな姿勢を取るばかりでいいのだろうか。

 米国は核兵器の近代化を推進。ロシアは中・短距離の戦術核を増強しているとされる。中国も「核弾頭の数を10年間で倍増させる」と米国防総省は分析。北朝鮮などNPT未加盟国の動きもある。1発でも甚大な被害をもたらす核兵器が地球上にいまだ1万3千発以上存在していることを思えば、3発目の投下に対して改めて危機感を抱くべきだ。

 核兵器禁止条約は被爆者の声や非保有国が主体となって成立へと導いた。核軍縮を迫る圧力となるのは間違いないが、実効性を高めるには、条約に背を向けている核保有国を引き入れることが欠かせない。就任したバイデン米大統領は「核なき世界」の理念を継承し、核軍縮に前向きな姿勢を示している。これを機に新たな潮流をつくり出したい。

 英語で被爆体験を伝える活動を続けてきたサーローさんが古里を思い出すとき、目に浮かぶのは当時、4歳だったおいの姿という。小さな体は溶け、肉の塊に変わっていた。悲惨な経験を踏まえ、世界にこう訴えてきた。「核兵器は必要悪ではなく、絶対悪」。核保有国のリーダーらに率先してかみしめてもらいたい言葉だ。

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