遊水地候補「自宅再建、無駄に…」 熊本豪雨治水策に住民ら戸惑い

熊本日日新聞 | 2021年03月04日 07:30

豪雨で被災した後、自宅のリフォームを進めてきた一橋國廣さん。地元が遊水地の整備候補地となったことに動揺を隠せない=3日、人吉市

 昨年7月の熊本豪雨で氾濫した球磨川流域の治水策の一つで、あふれた水を川沿いの土地にためる「遊水地」の整備候補地を国が示した。候補とされた人吉市中神町の大柿地区は被災直後、集団移転を望んだが、今は別の道も模索中。国の提示に、住民からは戸惑いの声が上がっている。4日で豪雨から8カ月。

 約50世帯が暮らしていた大柿地区は全域が浸水。被災直後の昨年7月のアンケートでは約9割の世帯が集団移転を望んだ。しかし、人吉市が示した移転案は、予想以上の費用や時間がかかることが判明。アンケートを取りまとめ、市に伝えた地区の町内会長、一橋國廣さん(76)は「高齢者世帯が多く、受け入れ難かった」という。

 現在、地区を離れると決めた住民がいる一方、住み慣れた土地で自宅を修理し続けている人もいる。そうした状況の中で示された今回の遊水地整備案。一橋さん自身も仮設住宅に入居し、自宅のリフォームを進めてきたが、「今までしてきたことは何だったのか」と動揺を隠せない。

 大柿地区で説明会があったのは2月27日。国は遊水地の整備方法として、平常時に農地として活用する「地役権補償方式」と、地盤を掘り下げて貯水容量を確保する「掘り込み方式」を示した。

 整備が決まれば、移転を余儀なくされる可能性もある。住民からは「強制執行での立ち退きもあるのか」との質問もあった。同席した松岡隼人市長は「大事なのは、住民の思い」と述べたという。

 大柿章治さん(75)は修復した自宅で生活を再スタート。被災前に営んでいた温泉施設や農地の復旧を目指しており、「遊水地にするのかどうか行政は早く決断してほしい。造るのなら、これまで投じた費用が無駄にならないような補償が必要だ」と訴える。

 一橋さんは「早く説明してほしかった」。町内会長として住民の意見を取りまとめる考えだが、「先祖から受け継いだ家を守ってきた人も多い。簡単にはまとまらないだろう」と先を見通せない。

 遊水地による治水は、2008年に蒲島郁夫知事が川辺川ダム計画の白紙撤回を表明して以降、国と県、流域市町村が代替策の一つとして検討。人吉市を含む流域17カ所を候補地としたが、農地を失いたくないといった地元の懸念などで具体化しなかった。

 今回、国が遊水地に期待する洪水調節容量は約600万トン。国土交通省八代河川国道事務所は「住民の理解を得ながら丁寧に進めたい」として、4日には対岸の中神地区で説明会が開かれるが、他の候補地は明らかになっていない。(臼杵大介、小山智史)

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