水俣病への注目、救済の力に 映画「MINAMATA」、21年日本上映 妻アイリーンさん期待

熊本日日新聞 | 2020年11月25日 10:19

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ユージン・スミスと妻のアイリーン・美緒子・スミスさんが1975年に発表した写真集「MINAMATA」

 水俣病を世界に伝えた米国の写真家ユージン・スミス(1978年死去)をハリウッド俳優ジョニー・デップさんが演じる映画「MINAMATA」の国内上映が、来年に決まった。妻として共に活動したアイリーン・美緒子・スミスさん(70)=京都市=は水俣病が注目され、被害者救済の力になることを期待している。

 夫妻は1971年から3年余り熊本県水俣市で暮らし、患者や家族の日常と苦悩を撮影。胎児性患者の娘が優しいまなざしの母親に抱かれる一枚は、世界に感銘を与えた。

 海外映画が扱う日本の社会問題。現地水俣には「多様な被害を捉え切れるだろうか」といった不安の声もあるが、アイリーンさんは「見終わった後で考えたり、学んだりすることを求められる作品」と話し、水俣への関心が一過性に終わらないよう願っている。

 映画では、原因企業チッソと相対した患者運動のリーダー川本輝夫さん(99年死去)らの闘争も描かれている。闘争を巡っては72年、取材のため千葉県の同社五井工場を訪れたユージンさんが患者とともに暴行被害に遭い、後遺症を負った。

 一方で、アイリーンさんは「ネガティブな事ばかりではなく、温かさや希望もある時代だった」と語る。ウイスキー片手に人懐こく話すユージンさんを、家族のように受け入れてくれた患者や家族。水俣病1次訴訟の口頭弁論が熊本地裁で開かれる前夜は、熊本市の宿舎で原告の患者らと枕を並べた。

 チッソ側から、不当に低額の見舞金の受け入れを強いられた患者らが正当な補償を求めた同訴訟は73年、原告側が全面勝訴。企業城下町の“城主”を相手に立ち上がった患者らを全国の支援者や研究者らが支えた。アイリーンさんは「あの判決は宝物のようなもの」と振り返る。

 水俣で過ごした濃密な日々から半世紀。アイリーンさんは今、ジャーナリストとして原発問題に向き合っている。国が後押しした便利さの追求が地方に悲劇をもたらした点など、原発問題と水俣病は共通点が多い。

 問題解決の糸口が見えない点も同じだ。水俣では1次訴訟原告の子どもの世代が裁判を続けている。そうした現実を踏まえ、アイリーンさんは訴える。「水俣や熊本の皆さんも注目される。上映を機に被害者救済へ向けて声を上げてほしい。何の罪もなく苦しんでいる人々を救うため一丸となることは、県民の誇りになるはずです」(堀江利雅)

映画「MINAMATA」 米国の写真家ユージン・スミスと妻のアイリーン・美緒子・スミスさんが1975年に発表した同名の写真集が原作。主演のジョニー・デップさんはプロデューサーも務めた。患者運動のリーダー川本輝夫さんを真田広之さん、アイリーンさんを美波さんが演じた。日本やセルビアで撮影があり、2月のベルリン国際映画祭で初上映された。